■地図から消滅

 高高度地域の生態系と生物多様性が打撃を受けた場合、その影響は山岳地帯をはるかに越えて広がると、科学者らは警告する。

 仏国立農学研究所(INRAE)のソフィー・コービフローニー(Sophie Cauvy-Fraunie)氏によると、氷河や氷河の融解水が流入する寒冷地河川には、光がほとんど届かない状態などの過酷な環境に適応した細菌や菌類が生息している。また、微小藻類は氷河環境の食物連鎖の始めとなる食物となり、氷河ノミや他の昆虫を支えている。

 気温が上昇して氷河が後退し、地表面の露出が増えるのに伴い、現在はピレネーの氷河のある地域よりも低い高度でしか生存できない動植物が、ピレネー氷河でコロニーを形成しやすくなる。「ピレネー在来種が氷河の状況に依存している場合、これらの在来種は地図から消滅する」と、コービフローニー氏は指摘する。

 ピレネー気候変動観測所(OPCC)は2018年の報告書で、ピレネー山脈全域の平均最高気温が21世紀半ばまでに1.4~3.3度上昇する可能性があると予測している。

 氷河縮小によって全域が悲惨な状況になると予測される高高度地域ほど、平均気温の上昇は劇的だ。

 モレーン氷河学会によれば、ピレネー山脈のスキー場ラ・モンジー(La Mongie)の上方に位置する標高2870メートルのピク・デュ・ミディ・ド・ビゴール(Pic du Midi de Bigorre)山では、1880年以降に平均気温が1.7度上昇した。一方、同じ期間の世界平均気温の上昇は0.85度だった。(c)AFP/Herve GAVARD