【1月26日 AFP】反捕鯨活動で知られる海洋環境保護団体「シー・シェパード(Sea Shepherd)」の船サム・サイモン(Sam Simon)号の船室のドアが、3回ノックされた。夜中の0時30分、夜間パトロールが始まる時間だ。6人のボランティアがボートに乗り、近くにいる漁船団の操業を監視し撮影するために出発した。

 フランスの大西洋岸の浜辺に打ち上げられるイルカの死骸が増えている。シー・シェパードのボランティアたちの使命は、こうした漁船がこの地域一帯に生息するイルカに及ぼしている被害を記録することだ。

 シー・シェパードのサム・サイモン号は気象観測船を改造したもので、昨年12月22日からフランス南西岸沖のビスケー湾(Bay of Biscay)の夜間パトロール基地となっている。

 ボランティアらはトロール漁船が巨大な漁網を巻き上げるのを何時間でも待てるが、彼らの存在は煙たがられている。わずか数メートル離れたトロール船から、船員が「ごみあさりのやつらめ」と叫んだ。

 トロール船の漁獲対象はシーバスだが、シー・シェパードは一緒に漁網にかかるイルカやクジラ類を録画しようとしている。

 シー・シェパードは今回の活動で、トロール漁船にイルカ2頭が引き上げられる映像をインターネット上に投稿した。1頭は明らかに溺れ死んでおり、もう1頭は生きていて必死に漁網から逃げようとしていた。

■記録的な数の死骸

「イルカ混獲作戦(Operation Dolphin By-Catch)」は、この問題について一般の人々に警告し、当局に必要な措置を講じるよう圧力をかけるのが狙いだ。

 トロール漁業は同地域に生息するイルカに壊滅的な打撃を与えており、フランスの西海岸には毎年数百頭ものイルカの死骸が打ち上げられている。

 シー・シェパード仏支部の代表ラミヤ・エセムラリ(Lamya Essemlali)氏は「この問題はもう30年続いているが、沈黙のおきてのようになっている」と語る。

 専門家によると、死ぬイルカの数は増え続けているという。仏西海岸にあるラロシェル(University of La Rochelle)大学の海洋生物学者エレーヌ・ペルティエ(Helene Peltier)氏は、「2019年は全記録が更新された年だった」と語る。

 昨年、トロール漁の最盛期に当たる1月から4月までの間に、1200頭の小型クジラ目が西海岸の浜辺に死骸となって打ち上げられ、そのうちの880頭はマイルカだった。解剖したイルカの80%には漁船との衝突の痕があり、切り傷、折れた歯、頭部の傷、窒息の痕跡などがみられた。

 死んだイルカの大半は沈んだり、海に投げ捨てられたりするので、昨年死んだイルカ全体は1万1300頭に上ったと推定されている。

 フランス国立海洋開発研究所(Ifremer)の音響部門を率いるイブ・ルガル(Yves Le Gall)氏は、「漁師は魚がいる水域に行く。イルカもそうだ」と述べる。

■トロール漁の脅威

 ラロシェル大学の海洋研究所は2016年の報告書で、漁業がビスケー湾に生息する推定20万頭のイルカを脅かしていると警告している。

 ペルティエ氏は人間の活動により生息数の1.7%以上がすでに殺されたという。これは絶滅危惧の境界値であり、「間違って殺されるのは健康な個体なのだ」と指摘する。

 今世紀の最初の10年で、科学者と漁師らは共同で「ピンガー」と呼ばれる音響信号発振器を開発した。イルカに警告を発して追い払うためだ。だが意図しない捕獲を減らすことには成功したものの、ピンガーの採用は広がらなかった。

 環境保護活動家らは、トロール漁業など無差別な漁獲法の全面禁止を求めており、すでに消費者にボイコットを呼び掛けている。だが、仏漁業養殖業委員会(National Committee for Maritime Fishing、CNPMEM)のユベール・カレ (Hubert Carre)氏は、仏漁業の経済的重要性を考えれば、それは「不可能だ」という。

 より穏健な環境保護団体フランス・ネイチャー・エンバイロメント(France Nature Environment、FNE)のドミニク・シュビヨン(Dominique Chevillon)氏は、特定の海域での特定の魚種の定期的な漁業停止という中庸案を出している。

 当局は一部の沿岸沖で被害がより大きいトロール漁法を禁止している。だがペルティエ氏によると、トロール船以外もこれらの海域で操業しており、その被害の大きさを特定するのは困難となっている。(c)AFP/Laure FILLON