【2月1日 CNS】しわだらけの顔に濃い青色あるいは薄い青色の紋様が鼻筋を中心に、羽を広げたチョウのように花の両側に描かれている。これは、かつての苦難をへてきた顔であり、トールン族文化を代表する「生きた化石」だ。また、消えつつある中国の顔でもある。

 中国とミャンマー国境に近い雲南省(Yunnan)とチベット高原を結ぶ独竜江(Dulong River)流域には、残りわずかとなったトールン族の「紋面女(顔面に入れ墨をした女性)」がいる。

 肯国芳(Ken Guofang)さん(78)は1942年生まれ。独竜江郷が2012年に行った国勢調査の記録によると、66人の「紋面女」のうちの一人だ。

 顔に入れ墨をする習俗の起源について聞くと、「分からない」という。「そのほうが美しく見えるから」という人もいれば、「略奪されて奴隷にならないようにするため」という人もいるが、一つだけ確かなのは「顔に入れ墨をするのは大きな痛みを伴う」ということだ。

 やり方はまず、灰と水を合わせて作った墨汁に木の枝をつけ顔に紋様を描く。そして、イバラのとげを使って一回一回刺して墨を入れる。一針刺すごとににじみ出た血を拭い、薬草の液を塗る。墨を入れる人は、普通10日間の激痛にさいなまれ、出来上がった紋様は一生消えない。

 肯さんは12歳の時、他の同年齢の女の子らと一緒に、この成人の儀式のような「紋面」を経験した。当時、「紋面」に使われたのは、サンショウの一種「花椒(ホアジャオ)」のとげだったという。「痛くて体が引き裂かれそうでした。特に、鼻と唇の周りを刺す時が一番痛かったです」と当時を振り返る。

「私らは山の上から引っ越してきてもう何年もたちました。今住んでいるのは、政府が建てた定住用の住宅で、何でもそろっています。毎月、補助金も頂けるし、野菜や果物を育てる広い土地もあり、気分よく過ごせています」「昔は家もなく、履く靴もなく、いつもおなかをすかせていたけれど、今は毎日が本当に幸せです」と、たき火の炎を見ながら肯さんはつぶやいた。

 統計データによると、独竜江郷でまだ健在な「紋面女」は20人足らずとなり、みな寄る年波には勝てない。独竜江郷役場の職員は「この間もまた1人、亡くなってしまいました。肯さんは腰と目の調子が悪いのです」と心配する。

 職員によると、役場は「紋面女」のために健康カルテを作り、毎年1人当たり1000元(約1万5800円)の生活補助金を支給しており、2018年にトールン族は貧困から脱することができたという。

 トールン族の伝統文化の「生きた化石」として、肯さんを含む66人の「紋面女」の写真がトールン族博物館内に飾られ、名前や出生日などが黒い大理石に彫られて展示されている。

 博物館の建設に携わった参加者は「時が過ぎ去るにつれ、いつの日か彼女たちはいなくなるが、これらの写真と石碑はトールン族の文化、歴史、芸術、宗教そして喜びと悲しみをのせて存在し続けるだろう」と記している。(c)CNS/JCM/AFPBB News