■急流

コーンピーロング(Khon Pi Long):45キロ地点

 環境保護団体「ラブ・チェンコーン(Love Chiang Khong)」を率いるニワット・ローイゲーウ(Niwat Roikaew)さんは20年近くにわたり、メコン川のしゅんせつ計画に反対してきた。

 中国によるしゅんせつ作業がメコン川固有の生態系を破壊し、タイの主権を空洞化するとの二ワットさんらの主張もあり、中国政府は2019年3月、正式にメコン川の開発計画を棚上げにした。

「コーンピーロングは魚や鳥の繁殖場所になっている」と二ワットさんは言う。「かつては季節が生態系にとって重要な要素となっていた。だが、今では川の水位はダムの水門の開け閉めによって変わるため、生態系が機能しなくなってしまった」

「この川の急流を破壊したいだって? メコンを殺すようなものだ」

 環境への影響のリスクは、下流になるほど高まる。

 メコン川とつながるカンボジアの広大なトンレサップ(Tonle Sap)湖では、毎年50万トンの魚が取れ、国内の貴重なたんぱく源供給地となっていると、「Last Days of the Mekong(メコン川の最後の日々)」の著者ブライアン・エイラー(Bryan Eyler)氏は言う。

 しかし、ベトナムでは上流のダムにより堆積物がせき止められたため、土手が崩壊し、メコンデルタが失われつつある。

 これらの悲観的なシナリオに中国は異議を唱え、またタイ・メコン川の土木工事計画を固めたことはないと主張している。