【1月17日 AFP】自分が投げた物をイヌが楽しそうに走って追いかけ、口にくわえて戻ってくる。戻ってきたイヌを褒めたり、頭をなでたりする――「取ってこい」の遊びは、多くの人にとっておなじみだ。

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 こうした遊びは何千年も繰り返されてきたに違いない。「取ってこい」はイヌが1万5000年以上前にオオカミの祖先から家畜化されて以来続いており、人間と「最良の友」とのゆるぎない友情の絆を象徴している。

 だが、学術誌「アイサイエンス(iScience)」に掲載された最新論文で、一部のオオカミの子どもも物を投げて取ってくる遊びをすることが明らかになった。人間が発する微妙な社会的手掛かりを読み取る能力はイヌ固有の特性で、選択的に交配した結果だとする仮説が長年支持されてきたが、今回の研究結果はそれを覆すものとなった。

 オオカミの子どもが「取ってこい」をすることは、スウェーデンの研究チームが異なる3匹の母親から生まれたオオカミの子ども13匹を対象に実施していた行動試験の際、偶然に分かった。研究チームは、オオカミとイヌの違いと共通点を探るため、それぞれの子どもを生後10日から飼育していた。

 この研究が3年目に入った時、論文の筆頭執筆者で、スウェーデン・ストックホルム大学(Stockholm University)の行動生態学者クリスティーナ・ハンセン・フィート(Christina Hansen Wheat)氏は、生後8週間のオオカミの子どもの中に、見知らぬ人間がボールを投げ、取ってこさせようとする遊びをしていることに興味を持つ子どもがいることに気付いた。事前に訓練はしていなかったという。

 同氏はAFPの取材に「オオカミの子どもがボールを取りに行く遊びをするのを初めて見た時は鳥肌が立った。予想外だった」「その後、同じことをする子どもをもう2匹見つけて、非常に興奮した」と話した。

 研究チームは、オオカミの子どもを対象に一連の実験を実施し、録画した。その結果、13匹のうち3匹が、一貫してボールを取りに行く遊びをする能力を示した。この3匹はどれも同じ母親から生まれた子どもだった。

 人間の指示で行動する能力にばらつきがあることは、この能力がオオカミには珍しいものだが、先史時代に人間が交配を進めるオオカミの個体を決める上で重要な因子となったことを今回の結果は示唆している。

 ハンセン・フィート氏は今回の研究結果が、イヌの家畜化の過程に興味深い「新たなパズルのピース」を追加すると考えている。(c)AFP/Issam AHMED