■「森林の本」

 探検家用の帽子をかぶり、リュックサックを背負ったベタンクール氏は、首都ボゴタから約40キロ離れた山岳地帯にあるチンガサ国立公園(Chingaza National Park)に足を踏み入れた。

 そして黄色い小さな花の前で突然立ち止まると一枝切り取り、アルコールに浸した新聞紙で包んだ。

 大学の植物標本室に戻るとベタンクール氏は学芸員に早変わりし、色や大きさ、匂い、採取地の座標、標本番号をノートに手早く書き込む。その番号から、これまでに集めた標本の数が2万2999点に上ることが分かる。

「植物標本を集めるたびに、私たちの森林の本に新たなページを書き入れているような気がする」とベタンクール氏は言う。

 将来、万が一どこかで植物が姿を消しても「そこに昔、どんな種が自生していたかを知ることができ、またその地域の自然史をつくり直すこともできる」という。

 ベタンクール氏が収集を始めて間もないころ、アマゾン(Amazon)の熱帯森林を歩いて調査した種は今はもうない。

 ボゴタのアレクサンダー・フォン・フンボルト生物資源研究所(Alexander von Humbolt Biological Resources Research Institute)は、森林伐採により少なくとも2100種の植物が絶滅の危機にあると推定している。(c)AFP/David SALAZAR