【1月18日 AFP】オーストラリアの野生動物保護団体「ワイヤーズ(WIRES)」のサラ・プライス(Sarah Price)さんは、焼け落ちた木々の間に横たわる瀕死(ひんし)のカンガルーのおなかの中から、奇跡的に生きているおびえた赤ちゃんを助け出した――赤ちゃんは「チャンス」と名付けられた。

 チャンス親子は、オーストラリア南東部で猛威を振るう森林火災を生き延びた。だが、母親は極度のストレスにより臓器が破壊され、死んでしまった。これまでに火災による影響で、10億匹を超える動物が死んだと推測されている。

 チャンスは普段は暗い部屋に置かれた袋に隠れており、食べ物や水が与えられ徐々に回復している。

 毛が焦げたコアラや手足にやけどを負った有袋類ポッサム、黒焦げになったカンガルーの死骸などの画像が世界中に拡散し、気候変動によって加速する危機に直面する国と自然環境の象徴になった。

 カエルや昆虫、無脊椎動物、爬虫(はちゅう)類といった目立たない生物の個体数も打撃を受けたとみられている。

 森林火災の季節に入ったばかりのビクトリア(Victoria)州では、コアラや鳥、ワラビー、ポッサムが運ばれてくると獣医師らは話す。これらの動物はやけどを負っているだけではなく、呼吸器障害も起こしているという。

 メルボルン動物園(Melbourne Zoo)を運営するズーズビクトリア(Zoos Victoria)の広報担当者は、「人道上の理由から安楽死をさせなければいけない動物も多いが、命を救える動物もいる。ほんの一握りだが、残された生息地に戻されたものもいる」と語った。

■「野生動物の大量虐殺」

 オーストラリアに生息する哺乳類の絶滅率は世界で最も高いが、今年は森林火災によって一部地域では絶滅する種が出てくるのではないかとの懸念が高まっている。

 サウスオーストラリア(South Australia)州の沖合にある野生動物の楽園カンガルー島(Kangaroo Island)の3分の1は壊滅状態にあり、一部の固有種は絶滅した恐れがある。

 同島に設置された仮設の動物病院には連日、多数の負傷したコアラが運ばれてくる。この仮設病院で治療を行うボランティア団体のチーム代表、スティーブン・セルウッド(Steven Selwood)氏によると、今回の森林火災の発生以前、カンガルー島には約4万6000頭のコアラがいたとみられるが、残っているのはわずか9000頭だという。この数は「かなり衝撃的」だと同氏は述べている。

 自然保護団体「絶滅危惧種回復ハブ(Threatened Species Recovery Hub)」のジョン・ウォイナルスキー(John Woinarski)氏は豪ABCに対し、森林火災は野生動物の「大量虐殺」だと述べた。

 一方、豪シドニー大学(University of Sydney)のクリス・ディックマン(Chris Dickman)教授は10億匹以上の動物が死んだと推測しているが、これは「かなり控えめだ」と話す。

「私たちは、気候変動によって世界がどのようになるのかを目の当たりにしているのかもしれない。オーストラリアで今、起こっていることはその第1段階なのだ」(c)AFP/Glenda KWEK