これまでマクラーレンが構築してきた〝スポーツ〞、〝スーパー〞、〝アルティメット〞という3つのシリーズに属さない〝GT〞が来日。4人の編集部員が2日間に渡り、乗って、走って、語り合った。

村上 2019年もクルマはやっぱりオモシロかった、っていう具体的な最初のお題がマクラーレン。

塩澤 しかも4台も。すごいよね。

上田 まず今回の目玉は既存のアルティメット、スーパー、スポーツに続く第4のシリーズとして登場した”GT”です。そしてもう1台がスポーツ・シリーズに加わった600LTスパイダーになります。どちらも2019年に発表されたモデルで、GTは上陸ほやほやです。2018年にマクラーレンはトラックという計画を発表。2025年までに18の新型を発表する予定で、つい先日もエルヴァという昔懐かしい名のオープンカーを公開しました。あいかわらずすごい勢いですよ。

齋藤 あとの2台はスポーツ・シリーズの570Sクーペとスーパー・シリーズの720Sクーペ。今や自動車の世界はSUVを中心に回っていて、すごい勢いで電動化や自動運転に向かいつつあるのに、マクラーレンはカーボンのバスタブにV8ターボをミドシップ搭載した、リア2輪駆動のクルマのみ。それなのにどれだけバリエーションを展開するんだよ、って思うよね。こんなに面白 いメーカーはほかにないよ。

村上 しかもマクラーレンの世界販売台数は1位がアメリカ、2位がイギリス、3位が日本だからね。

上田 2019年は国内の保有台数が1000台に達したんですよね。

齋藤 アルピナも3位が日本。

村上 アルピーヌやランボルギーニ、マセラティも上位らしいよ。

齋藤 日本の消費力はすごいよね。

村上 こういうクルマはドライビング・スキルや経済力といったオーナーの力量が問われるけど、何よりこういうものを愛でる気持ちを持っているかどうかが大切。情緒、エモーションというべきかな。日本人はそういう感性を持っている。実は時計やファッションも割とそうだけど、すごく重要なことだと思う。

塩澤 マクラーレンって、けっこう本当のクルマ好き、運転好きが買う印象がある。IT系みたいな人たちが派手なクルマを買うっていうのとはちょっと違う気もする。

村上 でもIT系も多いんだよ。

上田 古いものに縛られない、今どきの考え方の人が好む印象ですね。

村上 フェラーリもポルシェも、すでにソサエティができあがっているでしょ。でも、マクラーレンはレースの歴史はあるけれど、ロードカーの歴史はまだ浅い。

上田 マクラーレンF1ぐらい?

齋藤 F1はあまりに数が少ないし、後継モデルもなかったよね。

村上 マクラーレンを選ぶ人にとって重要なのはそこ。先人がいないから平等なんだよ。イベントに行くと、圧倒的に世代も若い。いわば2019年的な新しいクルマの世界の良さがある。

McLaren GT

アプローチ・アングルは通常時で10度、リフト時で13度を確保。
GTのブレーキ・ローターはスティール製が標準。
荷室はエンジン搭載位置と排気の工夫により420ℓを確保。さらにフロント・ノーズ内にも150ℓの空間が。
リア・ピラーは中空でガラスが入り後方の視界を確保する。
GTのインテリアの基本的なデザインの意匠は従来のマクラーレンのものを受け継いでいるが、インフォテインメント・システムは刷新され、12.3インチのTFTスクリーンを採用するととともにセンター・コンソールも新デザインに。
720Sスパイダーでも採用された透明度を変化させられるエレクトロクロミック・ガラスパネルはオプション設定。標準ではカーボン・パネルとなる。シートはGT独自のもの。電動調整式でシート・ヒーターを標準装備。
グローブボックスも備わる。

これまでと対照的

齋藤 ここまでは世の一般的なクルマ好きから見た話だけど、逆にマクラーレン側から見ると、2009年にマクラーレン・オートモティブがグループから独立してロードカーをつくることになって10年が経ったわけだよね。そしてついにレーシング カーの公道版的なものではなく、ちゃんとしたロードカーをつくろうという体制になりつつある。

村上 最初のMP4-12Cは本当にレーシングカーみたいだったよね。車検証も入れるところがないし、タバコも携帯電話も置く場所がない。だいたい乗るのも今回の4台と比較にならないような太い敷居みたいなサイドシルを跨いでいた。

上田 スポーツ・シリーズの570Sが出てずいぶん敷居が下がった。

村上 あそこからどんどんマクラーレンの民主化が進んだ。今回GTが出て、ようやく民主的なスポーツカーとしての存在感が出てきたと思うんだよ。で、驚いたのは普通のスーパースポーツカーになっていたこと。今までは走りは素晴らしくても、どこか特殊な、マクラーレンというクルマだったからね。だけど民主化にはいい面だけじゃなく悪い面もある。いい面は、グローブボックスもあるし内装もお洒落になった。あとは見た目。全体的にすごく安定した。今まではちょっとイギリス的なエグさみたいなものがあった。最初のMP4-12Cは逆にあまりデザインされていないところがエキセントリックだった。

齋藤 MP4-12Cは1960年代のレーシング・スポーツだとか、あるいはそういうものをロードカーの世界に持ち込んだフェラーリだとかに習った形だった。ミドシップのスーパースポーツカーの定番。

塩澤 典型的な形だったと。

齋藤 それが続いていたけど、P1以降のスピードテールやGTで変わった。それまでは機能部品があって、そこに上から柔らかい布をぱっと被せたみたいな、必要最小限の容積で形にするのが彼らの理想だった。

村上 もはやGTはあきらかにデザインありきだよ。だから普通にカッコイイ。これまでは体脂肪ゼロで筋肉しかなかった。けれどGTはふくよかで美しく魅せるものになった。サイドのエア・インテークなんか、いかにもなデザインだよね。

齋藤 720Sが吸気孔とライトを一体化して最小の面積ですむようにしているのとは対照的だよね。

村上 GTは新しいマクラーレンのスタートだ、っていう感じがする。

齋藤 GTはフェラーリでいえば、フロント・エンジン系列のモデルだよ。アストン・マーティンだとか、ほかの自動車メーカーなら前にエンジンのあるモデルでやっていることをミドシップでやっている。

塩澤 面白いポジショニングだね。

齋藤 あと、なんとなくクルマ全体にフェミニンな感じが漂っている。

塩澤 まさかマクラーレンにエレガントさを感じるとはね。

村上 本当に美しいと思った。リアのランプも一直線で癖がないし。

齋藤 720Sだとか、今までのマクラーレンはレーシング・スーツが似合っていた。

村上 GTはタキシードまではいかなくても、ジャケットやスーツが似合う。ホテルのエントランスに乗り付けて、颯爽と降りたら格好いい。

上田 写真を撮らせて、って声をかけられましたよ。たぶんマクラーレンなのは分かっていないけど、カッコイイことは分かっている。

村上 そう、GTは老若男女誰が見ても「あ!カッコイイ!」って思うスタイルになった。

上田 実は従来のスーパー&スポーツ・シリーズに比べホイールベースは5mm伸びて、全長は4683mmになった。オーバーハングも長くて、バランスも良くなっている。

村上 まだ注目はされていないけれど、フェラーリ並みにカッコイイってみんながいうクルマになってるよ。

McLaren 600LT Spider

600LTスパイダーは1997年に造られたマクラーレンF1GTRロングテールの名から取られた"LT"シリーズ5番目のモデル。2019年3月からの期間限定で生産され、ほかのシリーズの生産日程の合間を縫って造られている。電動開閉式リトラクタブル・ハードトップを採用しながら、車両の重量増は600LTクーペ比で50kgにとどまる。トップ自体の開閉は40km/hまで可能。
足まわりの多くの部品は上位の スーパー・シリーズである720Sから流用されている。タイヤは専用のピレリPゼロ・トロフェオRとなる。
巨大な固定式リア・ウイングと上方排気となるエグゾースト・システムを採用しており、排気音を切り替えるフラップが簡単に目視できる。
ルーフを閉めると、その下には52ℓの荷室が現れる。リア・ガラスは電動で昇降可能。

新境地に踏み込む

齋藤 乗ってみても今までのマクラーレンとは違うよね。

上田 乗ってすぐ思いました。「なんだ、やればできるじゃん」って。

塩澤 僕は「こんなに民主化しちゃっていいの?」って思った。

上田 他が激しいから、っていうのもありますが、振動が全然伝わってこない。エンジン・マウントの剛性は600LTの半分だそうですよ。

塩澤 だから600LTスパイダーから乗り換えると......。

村上 天国と地獄。どっちが天国で地獄かな(笑)。でもその反面、走りの面ではかつての触れたらズバっと斬れそうな日本刀みたいな感覚が薄れて、なんだかもやもやする。これが民主化の悪い面なんだけど。

齋藤 GTで足のセッティングを"ノーマル"にすると、固定のスプリング・レートに対してダンピング・レートを緩めすぎてしまう。そうするとバネ下がばたつくんだよ。マクラーレンでそんなことは初めてだった。でも"スポーツ"にすると雑味が消えて、すっきりクリアなマクラーレン感がふわーっと出てくる。

上田 ボクは返却の時、GTの直後に570Sに乗りましたけど、同じ"スポーツ"なら街中では570Sはむしろ荒っぽく感じる。GTの"スポーツ"は洗練されています。

齋藤 1日1000km走るようなグランドツアラーとしてのベストも"スポーツ"だと思う。"ノーマル"は渋滞とかの時のためのもの。だから今までだったら踏み込まなかったところまで踏み込んできたんだよ。

塩澤 見える風景も違うよね。

齋藤 ノーズ先端がすごく高い位置にある。600LTスパイダーはぐっと急激にノーズに向かってラインが下がっているけど、GTはすっと伸びて、さっと落としている。

村上 だから普通のクルマっぽい感じなんだよ。逆にほかのモデルはレーシングカーみたいな風景だ。

上田 GTは従来のマクラーレンのようにとにかく視界がクリアで、すべての情報が伝わってくる感じでは ない。逆に前にものがある安心感があります。GTの後方視界は720S並みとまではいかないけど、ほどよい感じ。570Sはちょっと車線変更に気を遣うし、600LTスパイダーは絶望的に見えません(笑)。

塩澤 振動で視界がにじむよ(笑)。

齋藤 サーキットにパトカー、いないしね。で、改めてマクラーレンのポートフォリオを描くと、基本は570Sと720S。持っているダイナミクス性能の円は720Sが大きい。

塩澤 そしてそこからGTはラグジュアリー&コンフォート方向にぐっと円が伸びている。

村上 その対極のハード方向にいるのが600LTスパイダー。

上田 LTはいわば、サーキットに特化したモデル。ポルシェ911でいうならGT3RS。GT3じゃなく、最初からRS。これぞ触れたら斬れそうな日本刀みたいなクルマ。

村上 まぁ今のGT3RSは普段も乗れるけどね。600LTスパイダーは遮音材とかも一切合切ひっぺがした感じで、タイヤが巻き上げる石の音とかすごかった。でもなんでスパイダーなの?911GT3RSにカブリオレはないよ。

齋藤 600LTクーペはすでに完売。瞬殺してるよ。

上田 基本、レーシングカーに屋根は不要ですよ(苦笑)。

齋藤 いやいや、かつてはレギュレ ーションでオープンが必須だったとか、軽くするにはオープンが有利だとかメリットはあったけどね。

村上 そう聞くとオープンでもいいかと思うけど、違和感はある(笑)。

上田 実際にはクーペより重くなっていますからね。でも屋根が開くといいこともある。あの上方排気のサウンドはシビレますよ。火を噴きそうなテールパイプがすぐそこですから。

塩澤 聞こえる位置がすごく独特だった。サーキットは屋根を閉めて走って、行き帰りは屋根を開けてエンジン・サウンドを楽しむと。

村上 うーん、でもGTと600LTスパイダー、どっちがいいかというと難しい選択だ。

齋藤 でもサーキットに行かないな ら600LTスパイダーを選ぶ理由はないよ。

McLaren 720S

今回の試乗車は720Sクーペだが、2019年夏には720Sスパイダーも上陸している(発表は2018年)。
カーボン・セラミックのブレーキ・システムは標準装備。
サーキットなど必要最低限の情報だけが欲しい時にはメーター・ユニットが倒れてもう1つの表示ユニットが現れる仕掛け。
ドアが斜め前方に向かって開くクーペと異なり、スパイダーはフェンダーとドア自体の長さがクーペとは異なる。

マクラーレンの王道

上田 そこで720Sですよ。

村上 そうなんだよ。この2台に乗れば乗るほど、720Sの素晴らしさに気がつくんだ。

上田 720Sはほかの3台とは別格で、これのみ上位のスーパー・シリーズ。MP4-12Cからずっと連なる、前後左右連結式のサスペンション・システムの乗り心地は、やっぱり異次元でした。

塩澤 焦点が合っているというか。バランスが取れているというか。硬いけど、いわゆる嫌な硬さではない。嫌だって感じる部分をひたすら削って極めた感じ。段差はそれなりにバシンと来るけど、まったく不満もなくて、気持ち良くすら感じる。

村上 脚まわりの完成度は720Sがピカイチ。でも570Sのバランスの良さも改めて感じた。

齋藤 720Sと570Sは彼らの考えるスーパースポーツカーの王道だからね。マクラーレンってどんなクルマですか?って尋ねられたら、720Sか570Sに乗ってみてください、と言えばいい。

塩澤 あと、どのマクラーレンもコーナリングが無茶苦茶楽しい。

齋藤 600LTスパイダーでステアリングを切った瞬間の、まったく遅れのないタイトな反応は本当に夢のようだよ。コーナリング中の瞬間的な愉悦とでもいおうか。あの快感はフェラーリにもランボルギーニにもない。マクラーレンはどれに乗ってもドライビング・ハイがある。

上田 そういう部分は、もちろんGTでも共通でしたよね。

村上 今回GTが導入されてマクラーレンは新しい時代を迎えたと思うけど、正念場はここからだよね。民主化のおかげでこれからは本当にいろいろな人が乗るようになる。

齋藤 たった10年でここまで来たのは間違いなく偉業だよ。ものすごいスピードで次から次へとバリエーションを拡大して、動力性能も引き上げてきた。そんなのどこのメーカーもついて来れなかった。でもそれはレーシング・コンストラクターの思想。その範疇の中では、量産のロードカーの世界には入っていけない。両者は相容れないからね。

上田 GTはついにその思想から、一歩足を踏み出した。

村上 クルマ好きの世界に、新しい扉を開いたんだよ。

McLaren 570S

スポーツ・シリーズは最初に登場した570Sクーペが基本のモデルで、リトラクタブル・トップを備えた570Sスパイダー、エントリー・モデルの540C、横開きのリア・ハッチを備えた570GT、600LT&600LT スパイダーが順次登場している。
570Sもカーボン・セラミック・ブレーキを標準で装備する。
走行モードを任意で切り替えるセンター・コンソールのロジックは基本的にマクラーレン各車共通のものだ。
 

■GT

駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4683×2045×1213mm
ホイールベース 2675mm
トレッド(前/後)  1671/1663mm
車両重量(前軸重量:後軸重量)  1530kg(640kg:890kg)
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツイン・ターボ
総排気量 3994cc
最高出力 620ps/7500rpm
最大トルク 64.2kgm/5500-6500rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前後)  マクファーソンストラット+コイル
ブレーキ(前後)   通気冷却式スチール・ディスク
タイヤ(前)(後)   225/35ZR20 295/30ZR21
車両本体価格(OP込・10%税込)   2645万円(3256万4000円)

■マクラーレン570Sクーペ

駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4530×2045×1202mm
ホイールベース 2670mm
トレッド(前/後) 1673/1618mm
車両重量(前軸重量:後軸重量) 1450kg(610kg:840kg)
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツイン・ターボ
総排気量 3799cc
最高出力 570ps/7500rpm
最大トルク 61.2kgm/5000-6500rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前後)   マクファーソンストラット+コイル
ブレーキ(前後)   通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク
タイヤ(前)(後)   225/35ZR19 285/35R20
車両本体価格(OP込・10%税込)    2725万円(3126万1000円)

■600LTスパイダー

駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4604×2045×1196mm
ホイールベース 2670mm
トレッド(前/後)   1680/1591mm
車両重量(前軸重量:後軸重量)   1430kg(610kg:820kg)
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツイン・ターボ
総排気量 3799cc
最高出力 600ps/7500rpm
最大トルク 63.2kgm/5500-6500rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前後)   マクファーソンストラット+コイル
ブレーキ(前後)   通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク
タイヤ(前)(後)   255/35ZR19 285/35ZR20
車両本体価格(OP込・10%税込)  3290万円(3969万円)

■720Sクーペ

駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4543×2059×1196mm
ホイールベース 2670mm
トレッド(前/後) 1674/1629mm
車両重量(前軸重量:後軸重量)  1430kg(590kg:840kg)
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCツイン・ターボ
総排気量 3994cc
最高出力 720ps/7250rpm
最大トルク 78.5kgm/5500rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前後)  マクファーソンストラット+コイル
ブレーキ(前後)   通気冷却式カーボン・セラミック・ディスク
タイヤ(前)(後)   245/35ZR19 305/30ZR20
車両本体価格(OP込・10%税込)   3530万円(4252万5000円)

話す人=村上 政(ENGINE編集長)+塩澤則浩+齋藤浩之+上田純一郎(まとめも、以上ENGINE編集部) 写真=小河原 認