17年ぶりに復活したトヨタ・スープラや高速道路での手放し運転を可能にした日産スカイラインなど、2019年も日本のメーカーから注目すべきニューモデルが輩出された。アクセラから改名したマツダ3もその1台。ハッチバックの斬新なデザインをはじめ、プレミアム・ブランドに勝るとも劣らぬ質感を持つインテリアやシートから見直したという新しい車両構造技術の採用など、見るべきところの多い注目のモデルだ。
さらに、このマツダ3には自動車業界をあっと言わせた特筆すべき新機軸が設定されている。それが"スカイアクティブX"。メルセデスなどが開発を手掛けたものの、モノにできなかった画期的な技術をマツダが世界で初めて実用化させたのだ。
スカイアクティブXは、これまでのガソリン・エンジンをベースに"SPCCI=火花点火制御圧縮着火"という新しい燃焼技術を盛り込んだ新世代エンジンである。これまでのガソリンは燃料を含んだ混合気を点火プラグから飛ばした火花で着火していた。それに対してSPCCIは火花着火も併用しつつ、主たる燃焼はディーゼルのような圧縮による自然着火で行う。圧縮比はマツダのディーゼルよりも高い15:1。これらにより理論空燃比の2倍以上薄い混合気での燃焼、いわゆるリーンバーンを可能にし、また、多くの空気をシリンダー内に取り込めるようになったことでスロットルによる吸気損失を低減するなど機械損失を抑えることにより、燃費の低減を実現した。
世界初の圧縮着火ガソリン・ユニットは2.0ℓ直4。通常のガソリン・エンジンとの違いはヘッド周り、ピストン、シリンダー・ライナーなどを専用品に変更。さらに空気をより多く取り込むためのエア・サプライと呼ばれる送風機を新たに追加している。また、このエンジンには24V電源を用いた出力6.5㎰/6.2kgmのモーターを用いたマイルド・ハイブリッド機構も備わる。エンジンの出力は通常の2.0ℓガソリンと比べると10%程度出力は高い。ちなみにWLTCモードの燃費は通常のガソリンの15.6㎞/ℓに対し、17.2㎞/ℓとこちらも約10%向上している。
圧縮着火を用いているという面では機構的にはディーゼルに近いもののパワー特性や音、振動など、その感触はほぼガソリンと変わらない。通常のガソリンとの違いはまず回転フィールが上質なこと。吹け上がりは6気筒や8気筒といった多気筒ユニットのように滑らか。エンジン単体の音量はディーゼルと同じレベルらしいが、断熱と遮音も狙ってエンジンの周辺に囲いを設けている効果が大きく、実際に耳に届く音は静かで音質も荒々しくない。
またモーターのアシストもあってか、低回転域からしっかりとトルクが出て、しかも6000rpmを超える高回転域までパワーが途切れないのでとても扱いやすい。蹴り出しの力強さだけでいえば最大トルクが20%以上大きいディーゼルに分があるものの、ディーゼルは常用回転域が狭く、スポーティに走らせようとするとどうしても変速回数が多くなってしまう。そのため、ガソリンよりせわしなく、乗り易さや上質という面ではスカイアクティブXの方が上。もちろん、高回転域までしっかり回せば、速さでもディーゼルを上回る。
マツダ3の中でスカイアクティブXが最も秀逸なユニットだ。内燃機関もまだまだやり方次第では十分にイケるということを示してくれた。
唯一かつ最大の死角は価格。2.0ℓより68万円以上も高い。この金額はVWゴルフで例えるとハイラインとGTIの価格差に相当する。スカイアクティブXを選ぶかどうかは、その一点に掛かっているといって過言ではないだろう。
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
■マツダ3ハッチバックX Lパッケージ(FF・AT)
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4460×1795×1440㎜
ホイールベース 2725㎜
トレッド 前/後 1570/1580㎜
車両重量(車検証記載前後重量) 1440㎏(前930㎏:後510㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴
総排気量 1997cc
ボア×ストローク 83.5×91.2㎜
最高出力 180ps/6000rpm
最大トルク 22.8kgm/3000rpm
変速機 6段AT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前/後 215/45R18 89W
車両価格(税込) 338万463円
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