■兄弟の免疫系

 ヨハン君の白血球は細菌や真菌の感染を撃退する能力がなかった。健康な子どもでは特に心配する必要もないような単純な細菌感染でも、ヨハン君の幼い体の中では制御不能なほどに広がる恐れがあった。

 幸いにも、ヨハン君の兄で当時6歳だったトーマス君が完全に適合する骨髄の提供者だった。2018年4月、医師らはまず化学療法を用いてヨハン君の骨髄を「浄化」した。その後、トーマス君の寛骨(かんこつ、骨盤を構成する骨の一つ)から、長くて細い針を使って少量の骨髄を採取した。

 この骨髄サンプルから、トーマス君が「スーパー細胞」と呼ぶ幹細胞が抽出され、ヨハン君の静脈に注入された。これらの細胞は最終的にヨハン君の骨髄に定着し、正常な白血球を産生し始めると考えられた。

 次に施される処置は、予防的細胞療法だ。この治療は国立小児病院のマイケル・ケラー(Michael Keller)氏が主導する実験的プログラムの下で実施された。

 細菌から体を守る免疫系の一部は、わずか数週間のうちに再構築される。だがウイルスに関しては、この自然な過程には少なくとも3か月を要する。

■障壁は残る

 医師らはトーマス君の血液から、白血球のT細胞を抽出した。このT細胞はすでに6種類のウイルスに遭遇していた。

 ケラー氏はこのT細胞を培養器で10日間培養し、何億にも及ぶ特殊化したT細胞の大軍を編成した。このT細胞をヨハン君の静脈に注入すると、直ちに6種類のウイルスに対する防御が得られた。

 母親のマレンさんによると、トーマス君とヨハン君が風邪を引くと、同じ症状がほぼ同じ期間だけみられるようになったという。

 今回の治療的アプローチは、免疫療法として知られている。免疫療法はこれまで主にがんの治療に用いられてきたが、ヨハン君のように免疫系の機能が低下している患者がウイルスから体を守る目的で利用できるようになる日は近いと、ケラー氏は期待する。

 それを実現する上での最大の障壁は、治療の工程の複雑さとコストだ。今のところ、この治療を行えるのは米国内で約30か所の医療センターだけに限られる。

 骨髄移植から1年半が経過した時点において、ヨハン君の状態からは、治療の完全な成功が見て取れるという。(c)AFP/Ivan Couronne