■アジア人襲撃がゲームに

 犠牲になるのは、たいてい女性や高齢者だ。通りで目を付けられ、後をつけられる。そして、人通りのない場所まで来て襲われる。

 タンさんは、「狙われるのはアジア人だからだ」と言う。「『非力で、いつも現金を持ち歩き、自衛するすべを知らない』。こういったアジア人に対する固定観念が襲撃に関係している」

 警察当局の記録によると、2018年5月からの1年間に114件の襲撃が起きており、これは3日に1件の発生頻度に相当する。事件が起きた場所の大半がバルドマルヌだ(注:仏語版では、この統計は首都パリと同地域圏の警察の記録)。

 だが活動家らは、こうした問題はさらに広範囲で発生しているのではないかとして、当局はアジア人に対する人種差別を「放置」していると非難の声を上げている。

 襲われた人の多くは、被害に遭ったことを通報しない。報復を恐れてか、または恥の意識、不法滞在が理由のこともある。

 ロバート・ナ・チャンパーサック(Robert Na Champassak)さんは、自身が地域の団体「全ての人に安全を」に加わったのは、こうした襲撃に関する「タブーをなくす」ためだと話した。

 ロバートさんの母親(当時64)は2017年にダンス教室に行く途中で襲われ、その18日後に脳卒中を起こして亡くなった。

 医師らは襲撃と脳卒中との因果関係を示すことはなかったが、ロバートさんは、母親は、犯人らに襲われたことで健康を害したと信じて疑わない。「母は人生を楽しんでいた。それなのに、襲われてからは一歩も外へ出たがらなくなった。もうかつての母ではなくなった」

 ある警察当局者は、アジア系の人々を襲うことがギャングの仲間に加わる「通過儀礼」になっている可能性があると指摘する。匿名を条件に取材に応じたこの当局者は、「いきがっている若者は、アジア人はいつも大金を持ち歩いていると思い込んでいる」と説明した。

「彼らにとっては、(アジア人襲撃は)ゲーム、賭けだ。だからこそ、時に暴力がエスカレートする」

 一方で、フランス華人青年協会(AJCF)のレティシア・チブ(Laetitia Chhiv)会長は、「状況は改善している」と主張した。

 有害な固定観念を打ち破ることを目標に、パリを中心とした地域圏の学校では実験的な啓発プロジェクトが近いうちに開始されることになっている。(c)AFP/Alexandra DEL PERAL