【12月27日 AFP】2019年に歴史を動かした人々の中には、昨年まで無名だったにもかかわらず突如表舞台に躍り出て、世界と自分自身を驚かせた人物がいる。そのうち、AFPが選んだ「無名のヒストリーメーカー」8人を紹介する。

■トランプ氏弾劾の内部告発者

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が弾劾訴追されたきっかけとなった内部告発を行った人物については、与党・共和党をはじめ各方面で身元特定のため多大な労力が費やされた。だが、この人物はいまだに「内部告発者」としてしか知られていない。

 信頼のおける情報によれば、この人物は米中央情報局(CIA)に所属する中堅の男性分析官で、30代前半。東欧の事情に精通し、ホワイトハウス(White House)勤務歴がある。この男性は8月、トランプ氏がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領に対し、野党・民主党の政敵らの弱みを握るのを支援するよう圧力をかけたと匿名で告発した。

 米国では、選挙の際に外国政府の支援を求めるのは違法。男性が告発文書をジョゼフ・マグワイア(Joseph Maguire)国家情報長官代行に提出したことにより、弾劾調査が始まった。

■環境活動家グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さん

 米誌タイム(Time)の2019年版「今年の人(Person of the Year)」に今月選ばれたトゥンベリさん。全ては昨年8月、学校を休んで「環境のための学校ストライキ」と書いた札を手に、スウェーデン国会前で座り込みを始めたときに始まった。

 数か月のうちにトゥンベリさんの運動は世界中の注目の的に。内気な16歳の少女は各国首脳の前で演説をするようになり、世界各地で若者たちが学校ストライキを展開して、地球温暖化対策を求める運動「フライデーズ・フォー・フューチャー(Fridays For Future、未来のための金曜日)」が生まれた。

■香港の学生たち

 香港の学生は今年、「読書好きでおとなしい」という従来のイメージをかなぐり捨てた。黒い服に身を包んで火炎瓶を振りかざす姿は、独裁的でかたくなな当局に対する民主的な抵抗運動の象徴になった。

 中国本土への容疑者引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」改正案への反対から始まった大規模デモは、反中国を叫ぶ暴動に変容し、観光名所の繁華街はれんがが飛び交う市街戦の場と化した。デモの最前線に立つのは大学生や大卒の30歳未満の若者たちが中心となっている。

 明確な指導者のいない抗議運動は、まるで聖書に登場する巨人ゴリアテ(Goliath)に挑むダビデ(David)を思わせ、世界中の人々の想像力をかき立てた。各国から連帯のメッセージが舞い込み、欧州連合(EU)や国連(UN)、米国はデモの支持を表明した。

 これまでにデモ参加者6000人近くが逮捕され、約1000人が起訴されている。逮捕者と負傷者の記録から、デモ参加者の3分の1は女性だとみられている。

■ベネズエラの野党指導者、フアン・グアイド(Juan Guaido)国会議長

 今年になるまでグアイド氏は、左派のニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領を表立って批判することはなかった。だが、野党が唯一主導権を握る国会の議長に就任した数日後の1月23日、グアイド氏は「暫定大統領」就任を宣言し、突如マドゥロ氏の最大の政敵となった。

 米国など約50か国は、速やかにグアイド氏の暫定大統領就任を承認。マドゥロ政権の手先と野党が批判するベネズエラ検察は、グアイド氏を複数の罪状で訴追しており、同氏は最大で禁錮30年の判決を受ける恐れがある。

 米政府は、もしグアイド氏を投獄すれば、それがマドゥロ氏の「最後の過ち」になるだろうとベネズエラ政府に繰り返し警告している。

■スーダン革命の「象徴」アラ・サラー(Ala Saleh)さん

 スーダンでは今年、オマル・ハッサン・アハメド・バシル(Omar Hassan Ahmed al-Bashir)前大統領が失脚し、30年間続いた独裁体制が終わった。

 大学生のアラ・サラーさん(22)は4月、スーダン伝統の白い服に身を包み、車の上に立ってバシル政権への抗議の言葉を叫ぶ姿が反政府デモの象徴になった。片腕を空に突き上げ、大勢のデモ参加者らと共に歌い歓声を上げる様子を捉えた写真は、インターネット上で広く拡散された。

 有名人となり、ヌビアの女王という意味の「カンダカ(Kandaka)」の愛称で呼ばれるようになったサラーさんは、バシル政権下で抑圧されてきたスーダン女性たちの権利運動の代弁者となった。

■移民保護活動家、カロラ・ラケッテ(Carola Rackete)氏

 地中海で活動する国際援助団体の移民救助船「シーウオッチ3(Sea-Watch 3)」のドイツ人船長、カロラ・ラケッテ氏(31)は、イタリアの極右政治家マッテオ・サルビーニ(Matteo Salvini)内相に対抗したことで一躍、左派のヒーローとなった。

 今年7月、ラケッテ氏はリビア沖で漂流するボートに乗った不法移民53人を保護したが、イタリア当局はうち43人の受け入れを拒否。2週間にわたり海上で待機したラケッテ氏は、船内の環境が悪化したのを受け、当局の警告を無視してイタリア・ランペドゥーサ(Lampedusa)島に船を入港させた。

 ラケッテ氏は逮捕されたが、裁判所は「必要に迫られて」の行動だったとして逮捕状を取り消した。正当な逮捕だったかどうか、来年1月にイタリア最高裁が判断を下す。

■おとぎ話のようなブレーク、米歌手リル・ナズ・エックス(Lil Nas X

 1年と少し前に大学を中退し、きょうだいの家に身を寄せ、無職で、車どころか運転免許すら持っていなかったモンテロ・ヒル(Montero Hill)という名の若者は、カントリー・ラップ歌手リル・ナズ・エックス(20)として一気にスターダムを駆け上がり、今や億万長者となった。

 ヒット曲「オールドタウン・ロード(Old Town Road)」は米ビルボード(Billboard)シングルチャートで今年4~8月、19週連続で1位を獲得し、最長記録を更新した。

 これまでの最長記録は16週連続1位で、マライア・キャリー(Mariah Carey)とR&Bグループ「ボーイズⅡメン(Boyz II Men)」が1995年の「ワン・スウィートデー(One Sweet Day)」で樹立し、ルイス・フォンシ(Luis Fonsi)、ダディー・ヤンキー(Daddy Yankee)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)が2017年の「デスパシート(Despacito)」で並んでいた。

■ブラックホール撮影に貢献した女性科学者

 ケイティ・バウマン(Katie Bouman)氏(30)は4月、世界で初めてブラックホールの姿を捉えた画像の撮影に使われたアルゴリズムの開発者として、一夜にして脚光を浴びた。

 バウマン氏は2016年、国際協力プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」の一員として、世界中の望遠鏡を用いて集めた大量のデータからブラックホールの画像を生成するアルゴリズム「CHIRP」を開発。それを用いて作成された史上初のブラックホールの画像が、今年4月10日に公開された。

 発表当時ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)の博士研究員だったバウマン氏は、画像が完成した瞬間について「本当に素晴らしく、今までの人生で最も幸せな思い出」だと語っている。現在はカリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)に勤めている。(c)AFP