【12月26日 東方新報】中国で7人の殺害に関与し、20年以上逃亡を続けていた女が逮捕された。交際相手の男と2人で強盗殺人を繰り返し、逃避行を続けた中国版「ボニー&クライド」ともいえる事件。地元メディアは彼女の容貌から「美人殺人犯」と報じ、「美しい蛇がついに網に落ちた」と大々的に報道している。

 逮捕された女は労栄枝(Lao Rongzhi)容疑者(45)。1974年、江西省(Jiangxi)九江市(Jiujian)で石油工場の労働者の家庭で5人きょうだいの末っ子として生まれた。92年に師範高校を卒業して小学校の国語教師を務める。当時の彼女を知る住民は「目鼻がぱっちりとして身長は160センチ以上あり、美人だった」と振り返る。

 教師を1年ほどで休職して20歳の時、友人の結婚式で10歳年上の法子英(Fa Ziying)元死刑囚と出会う。両親は交際に反対したが、2人はほどなくして地元から姿を消した。

 1996年、22歳の労容疑者は江西省南昌市(Nanchang)でホステスとして働き、誘惑して連れ込んだ企業経営者から法元死刑囚が金を奪って殺害。さらに経営者の妻と幼い娘も殺した。翌年には浙江省(Zhejiang)温州市(Wenzhou)で女性2人から金をだまし取り殺害。

 1999年には、安徽省(Anhui)合肥市(Hefei)で労容疑者が男を誘って誘拐し、法元死刑囚が身代金を要求した後に殺すなど2人を殺害。法元死刑囚は合肥市で警察官との銃撃戦の末に逮捕され、強盗・誘拐・殺人の罪で死刑が確定し、同年12月に執行された。

 映画『俺たちに明日はない(原題:Bonnie and Clyde)』などで有名なボニーとクライドは一緒に射殺されるが、労容疑者はなおも逃走を続けた。複数の偽名を使い、ホステスをしながら各地を転々。2016年には「シェリー」と名乗ってクラブで働き、その容貌や甘えた声で売り上げは高かったという。クラブのクリスマスのイベントでは、サンタ姿の労容疑者の写真に「女神のシェリー」という文字を入れ、彼女がメインのポスターを作ったほどだった。

 そして先月28日、福建省(Fujian)厦門市(アモイ、Xiamen)で彼女は逮捕される。クラブで知り合った男性が経営する時計店で手伝いをしていたところを警察官に連行された。逮捕後に警察が公開した映像では、茶髪の労容疑者はカメラを上目遣いで見つめ、アヒル口で笑顔を浮かべていた。ネット上では「逮捕後もまだ笑っているとは」「やはり妖しい美しさがある」など、さまざまな感想が飛び交い、「男の名字は『法』で、女は『労』。連続強盗殺人犯にまったく似つかわしくない名字だ」という書き込みもあった。

 事件後、労容疑者の兄はマスコミのインタビューに応じ、「母親は娘の犯罪を最初に知った時、ショックであっという間に白髪になった」と振り返り、「妹は、法元死刑囚が被害者を誘い出すための『釣り針』だった。ただ、共犯だったことは間違いなく、法律の審判を受けるしかない」と語っている。

 今回、警察が容疑者を逮捕できたのは、最先端のクラウドネットワーク技術を駆使して指名手配犯を突き止める「クラウドの剣」作戦の成果だった。中国ではここ数年、高性能の顔認証技術を持つ高性能監視カメラが全国に数千万台設置され、膨大な映像データを人工知能(AI)で分析し、指名手配犯と似た容貌の人物を割り出す捜査が進んでいる。

 指名手配犯が移動中にカメラでとらえられた場合、日本の渋谷・ハロウィーン暴動事件の捜査と同様、カメラを1台ずつ検証するリレー形式で手配犯の行方をたどっていく。今回の労容疑者の逮捕は「クラウドの剣作戦で最大の成果」といわれ、「ビッグデータによる科学捜査の勝利」「キツネがいかに隠れようと、そのシッポを隠すことはできない」と喧伝(けんでん)されている。

 香港の有名歌手で「歌神」の愛称を持つ張学友(ジャッキー・チュン、Jacky Cheung)さんのコンサートでは、往年のスターを見ようと会場に訪れた指名手配犯が各地で次々と逮捕されている。チュンさんはこれで「捕神」の別称も持つようになった。

 治安維持を重視する中国では、犯罪に関する報道は通常ならば抑制されがちだが、今回は警察の「ビッグデータ大作戦」による捜査で逮捕されたため、「科学捜査の勝利」という面も強調しながら報じられた。(c)東方新報/AFPBB News