【12月16日 AFP】北極海(Arctic Ocean)に面するロシア・サハ共和国はここ数年、ゴールドラッシュならぬ「マンモスラッシュ」に沸いている。中国政府が象牙の輸入・販売を禁止したため、大昔に絶滅したゾウの祖先であるマンモスの牙の需要が増加していることが背景にある。(※この記事は、2019年1月28日に配信されました)

 マンモスの化石は、広さ300万平方キロのサハ共和国の広範囲にわたり埋まっている。サハ共和国の土壌は永久凍土で、これがマンモスを保存する巨大冷凍庫の役割を果たしている。マンモスの牙は「氷の象牙(アイスアイボリー)」の名で知られており、当局は、今もサハ共和国に推定50万トン分の牙が埋まっていると推定している。

 ロシアのマンモスの牙の輸出量は、2017年は計72トンで、その80%以上が中国に輸出された。

 地元の猟師や漁師は長年、川岸や海岸近くでマンモスの骨を採掘してきたが、価格はこの10年間で劇的に上昇した。

 中国では、高品質のマンモスの牙は1キロ当たり1000ドル(約11万円)以上の値が付く。サハ共和国北部は農業に不向きな気候で、仕事もないため、地元住民はマンモスの牙が安定した収入を得るための唯一の手段だと考えている。

 人々は、特定の地域で採掘を行うための免許を有料で取得している。認可を受けて10年以上採掘を行っているある男性は「ここでは今、マンモスラッシュが起きている」と語る。2013年には、マンモスの牙の採掘と売買を包括的に規制する法案がロシア議会に提出されたが、なぜかいまだに採決が行われていないと、不満を漏らす。

 ロシアからマンモスの牙を輸出することは、近年、ますます困難になっている。

■ゾウの命を守る

 マンモスの牙を採掘する業者は、最近、国営テレビで、採掘業者を大金持ちの密輸業者のように描いているドキュメンタリーが放映されたことに不安を募らせている。この番組は、サハ共和国当局が採掘業者の「犯罪的な」取引に目をつぶっており、採掘業者は考古学的価値のある地域を「野蛮にも」破壊していると批判した。

 だが、サハ共和国科学アカデミー(Yakutia Academy of Sciences)の古生物学者バレリー・プロトニコフ(Valery Plotnikov)氏は、マンモスラッシュのおかげで、自分たちでは入手できないような標本を手に入れることができるようになり、科学にとっては有益だと話す。

 プロトニコフ氏によると、ある採掘者が昨夏、珍しい絶滅したホラアナライオンの子どもの化石を発見したという。「私たちは、認可を得て採掘している業者と共存している」

 サハ共和国のアイセン・ニコラエフ(Aisen Nikolayev)首長は、マンモスの牙の採掘を規制する法案が2019年中には可決されることを期待すると述べた。マンモスの牙を特殊な天然資源として分類する全国的な法律が制定されなければ、売買は「グレーゾーン」のままだと指摘する。

 一方、サハ共和国の一部の住民は、自分たちが象牙のためのゾウの密猟を食い止めるのに一役買っていると自負している。

 ある住民は、「私たちのマンモスの牙が、ゾウを救っている」「マンモスの牙の採掘は、私たちにとっても、アフリカの人にとっても重要だ」と語った。(c)AFP/Maria ANTONOVA