【12月29日 AFP】1989年11月9日、東西陣営に分かれたドイツを分断していたベルリンの壁(Berlin Wall)が崩壊すると、人々は落書きだらけの壁の残骸の上で喜びのあまり踊っていた。グローバル化された世界に「歴史の終わり」が到来したことを告げる出来事だった。(※この記事は、2019年11月11日に配信されました)

 その30年後の今世界中で、れんが、コンクリート、レーザーワイヤなどでつくられた厳格な国境が復活している。これらが象徴する硬直化した新たな政治情勢は、旧ソ連圏崩壊時に西側に広がっていた高揚感や楽観論とはかけ離れたものだ。

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領はメキシコとの国境に壁を築こうとし、東欧諸国は移民を締め出すためにフェンスを建設、イスラエル人とパレスチナ人はコンクリートの壁で分離されている。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)は、EUの「開かれた国境」に対する拒絶を意味している。

■地球の外周に相当する長さ

 カナダ・ケベック大学モントリオール校(University of Quebec at Montreal)で国境の壁を研究しているエリザベス・バレ(Elisabeth Vallet)氏によると、世界71か所の壁の長さを合計すると4万キロに及ぶという。これは地球の外周に相当し、過去20年でこの数字は大幅に伸びている。壁とは地中に固定された通り抜けられない構造物を意味する。

 壁の多くは中国、インド、韓国、北朝鮮、中東に設けられている。また、欧米では主に移民の流入を阻止する目的で、新たな厳格な国境が設置されている。

 ベルリンの壁崩壊から30年たち、既存の世界秩序は混乱しているようにみえる。国家主義の指導者らは国際社会という概念そのものを否定し、壁が再び流行している。

 それにはいくつか理由が挙げられる。

 2001年9月11日の米同時多発攻撃によって、人々の間でジハーディスト(聖戦主義者)の脅威に対する恐怖が広がった。このため2000年代初め以降は、米同時多発攻撃が壁増加の理由だとされていたとバレ氏は指摘する。

 だが今日、壁建設の大きな要因となっているのはグローバル化だ。労働力、モノとサービス、アイデア、資本、技術が国家間を急速に移動する状況が多くの人を不安にさせ、強力な国家主権があった時代への回帰を望む動きが広がっている。「グローバル化によって、(国境の)開放と閉鎖という二つの動きが生じた」とバレ氏は説明した。

■皮肉な結末

 バレ氏自身は、完全に国境のない世界という考えについては懐疑的だ。国境と国家主権は消滅するというかつて流行した思想は、ポピュリズム(大衆迎合主義)に基づく敵意に満ちた反応を引き起こした。バレ氏はその例として、トランプ氏のメキシコとの国境の壁建設計画と、イタリアの極右政党を率いるマッテオ・サルビーニ(Matteo Salvini)氏による移民の入港禁止措置を挙げている。

 国境に関する報告書を最近、共著で発表したシンクタンク「トランスナショナル・インスティテュート(Transnational Institute)」のニック・バクストン(Nick Buxton)氏も同様の見方を示している。極右政治家は「特に経済的、社会的またはその他の理由で人々が不安を感じている時に、人々が恐怖を感じている部分」に訴えかけてくると、バクストン氏は指摘する。

「多くの国境警備会社が、政府に国境警備技術強化のための資金提供を働きかけていることを考えると、ますます世界は軍事的な壁によって分断される」とバクストン氏は語る。

「世界の要塞(ようさい)化が進むと、人々はますます不安を感じ、不安と恐怖の悪循環という皮肉な結果を生む」 (c)AFP/Yacine LE FORESTIER