がれきに漂うせっけんの香り、内戦で閉鎖の工房が再開 アレッポ【再掲】
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【12月30日 AFP】長年の内戦でぼろぼろとなったシリア北部アレッポ(Aleppo)に、小さなせっけん工房から漂うローレルオイルとオリーブオイルの香りが戻ってきた。(※この記事は、2019年5月6日に配信されました)
アレッポは2012年に反体制派が掌握し、2016年にロシア軍の支援を受けた政府軍が奪回するまで4年にわたり戦闘が繰り広げられた。せっけん工房が多数あるアルナイラブ(Al-Nayrab)地区もこの戦闘で大打撃を受け、再開した工房はいまだがれきの山に囲まれている。
だが、アリ・シャミ(Ali Shami)さん(44)にとって、工房を畳むという選択肢はなかった。「ほんのわずかしか作れなかったが、内戦中でもせっけん作りを続けた」
シャミさんは30年以上前にこの場所でせっけん作りを始めたが、2012年にアレッポが主戦場と化すと工房を閉鎖せざるを得なかった。戦闘の爪痕は、今でも建物にはっきりと残っている。爆撃により壁にはいくつも穴が開き、そこから隙間風が吹き込んでくる。
シャミさんは工房の一部を修理して、せっけん作りを再開した。工房では5人の作業員が、大きなたるに入ったオリーブオイルとローレルオイルのペーストをかき交ぜている。その横では、別の5人が冷えて固まった緑色のせっけんを切り分け、積み上げていく。内戦前には年間約800トンの生産量があったが、現在はその半分程度しかないという。
シャミさんは2012年に工房を閉鎖した後、別の都市でせっけん作りを続けようとしたが、アレッポほどの良質なせっけんを作ることはできなかった。
「アレッポの気候は、せっけん作りに非常に適している。住民は作り方のこつや製造過程で何が難しいかも分かっている」とシャミさんは話す。「手で適切に混ぜる必要があり、アレッポの住民の情熱とこの仕事に対する愛情が重要となる」
またアレッポは、せっけんの原料となるオリーブオイルやローレルオイルの産地としても知られている。
■世界最古
父と祖父からせっけん作りを引き継いだシャミさんは、アレッポ産のせっけんが高品質であることを誇りに思っている。せっけんはアレッポの特産品で、世界最古とも呼ばれている。
「アレッポのせっけんは、ほぼオリーブオイルでできており、他のせっけんとは違う」「欧州のせっけんは動物性油脂が、アジアのせっけんは植物性油脂が使われており、オリーブオイルではない」とシャミさんは説明した。
現在、危険な状況は改善されたが、原料や熟練した職人の数が足りないとシャミさんは話す。
■「国の宝」
現在でも数十のせっけん業者が、工房の再建を待っている。アレッポのせっけん業者組合の代表を務めるヒシャム・ジェベイリー(Hisham Gebeily)さんもその一人だ。
ジェベイリーさんは「戦闘前は町に約100軒のせっけん工房があった」が、現在せっけん作りを行っているのは約12軒だけだと話す。
アレッポのせっけん業者の多くは、首都ダマスカスやタルトゥース(Tartous)などに避難した。中には国境を越えてトルコに移住した人もいるという。
ジェベイリーさんによると、戦闘前のアレッポのせっけんの年間生産量は約3万トンに上ったが、2012年以降は1000トン以下に落ち込んだという。
だが今では、生産量は年間最大1万トンにまで回復している。せっけんは「国の宝」で「サウジアラビアにとっての石油、スイスにとってのチョコレート、ドイツにとっての自動車」に匹敵するとジェイベリーさんは語る。(c)AFP/Maher Al-Mounes