【12月4日 AFP】昨年中国の研究者がゲノム編集の技術を使ってエイズウイルス(HIV)に耐性がある遺伝子を持つ双子を誕生させた問題で、同研究者が手掛けた研究論文の一部が3日、米業界誌「MITテクノロジーレビュー(MIT Technology Review)」で初めて公開された。論文の内容を調べた専門家らは、実施されたゲノム編集が本来の目的を達成しておらず、意図したものではない遺伝子変異を作り出した可能性があると指摘している。

 MITテクノロジーレビューは賀建奎(He Jiankui)氏の研究が倫理的・科学的な規範を無視していたことを示すのを目的に、論文の抜粋を公開。賀氏は2018年末、遺伝子改変を施した双子のルル(Lulu)とナナ(Nana)を誕生させたと発表し、科学界に衝撃を与えた。

 賀氏は研究の成果について、「HIVの流行を制御」できる医学の飛躍的進歩だと誇示していたが、同氏の研究チームは実際にHIV耐性を付与する遺伝子変異を再現していないため、双子にHIVの免疫を持たせるという当初の目的を達成したかどうかは不明だった。

 CCR5と呼ばれる遺伝子の突然変異によって生まれつきHIV耐性を持つ人がごく一部いるが、賀氏はゲノム編集技術「クリスパー(Crispr)」を利用し、このCCR5を編集したと主張していた。

 カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)でゲノム編集を専門とするフョードル・ウルノフ(Fyodor Urnov)氏はMITテクノロジーレビューに対し、「CCR5の変異を再現したという彼らの主張は実際のデータをあからさまにゆがめており、一言で言えば意図的な虚偽である」と指摘。

 賀氏のチームはCCR5を対象としている一方、必要な「デルタ32(Delta 32)」という変異を再現しておらず、効果のはっきりしない新たなゲノム編集を行ったにすぎない。ウルノフ氏は、「賀氏のチームがCCR5変異を再現できなかったことは研究結果が示している」と述べている。(c)AFP