【11月30日 東方新報】年末が近づき、日本では恒例の「新語・流行語大賞」候補がリストアップされる季節になったが、中国では今年、「夜間経済」が新しいキーワードになっている。政府が市民に夜間の外食や買い物、娯楽などを奨励しており、いわば政府号令による「夜遊び方改革」だ。

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 北京や上海、広州(Guangzhou)といった大都市では、さまざまな夜間経済の振興策を打ち出している。深夜営業のレストランやコンビニに補助金を出し、美容院やブティック、映画、ライブ、カルチャースクールなどあらゆる業種に夜間営業を促し、美術館や博物館も開館時間を延長している。それに伴い、地下鉄の終電時間も延長している。

 特に北京市は7月に「夜間経済13条」の施策を発表し、「不夜城」づくりに躍起となっている。北京市の統計では、夜間(午後6時~午前6時)の消費タイムのピークは午後6~8時で、月間の平均消費額は市民の半数以上が500元(約7800円)以下。こんな「早すぎる、少なすぎる」現状を打開しようと、「深夜食堂を推進する」「夜の街にランドマークをつくる」「夜間の公共交通機関の充実」などの策を打ち出している。北京の「浅草」にあたる前門(Qianmen)を再開発し、北京の「六本木」と言われる三里屯(Sanlitun)のインフラを整備し、さらに各地に夜市やイベントの企画を開くよう求めている。

 もともと中国では「夜宵(夜食)」の習慣があり、深夜に友人や家族と連れだって街に繰り出すことは一つの生活文化だった。特に2008年の北京五輪のころは、盛り場は午前2時から3時までにぎわっていた。富裕層は不夜城スナックで女性を隣に座らせて盛り上がり、庶民や学生は路上に並ぶヒツジの串焼きなどの屋台に座り、安酒を片手に深夜まで談笑していた。

 それが2013年ごろから流れが変わる。政府は官僚や政治家の腐敗を取り締まる「反腐敗運動」に力を入れるようになった。権力を利用して企業から高額の賄賂や接待を受け、それを「元手」に愛人を囲うといった役人が次々と摘発されている。その方針はもちろん正しいことだが、中国でのビジネスが長い日本人に聞くと、以前なら中国の役人に「今晩、新しくできた日本料理店に行きましょう。その後は例の(ホステスのいる)クラブで」という接待に誘うのが当たり前だったが、この数年は相手から「食事は昼間に、質素に」「女性のいる店はともかくお断り」と言われるようになったという。大きなウエートを占めていた「夜の接待産業」が下火になった。

 また、北京では「首都の美化推進」として路上の屋台が次々となくなり、さらに営業許可基準の厳格化や人件費の高騰により、活気のあった市場や個人経営の店舗が姿を消していった。こうして街角でにぎわう光景は次第に見られなくなった。

 そんな中、中国経済にとって大きな打撃となったのが米国との貿易摩擦だ。ただでさえ経済成長は減速傾向だったが、輸出や投資面で重大な阻害要因となった。ここで政府が注目したのが「成長のエンジン」といわれる個人消費だ。個人消費も減速気味だったため、新たな消費奨励策として「夜間経済」が登場した。

 夜のとばりが下りると人の流れがすぐに消えた繁華街も、にぎわいを取り戻すようになった。ただ、一方で限界も指摘されている。中国では最近、「夜間経済」とは別のキーワードも注目されている。過酷な勤務体制を表す「996(午前9時から午後9時まで週6日勤務)」だ。過酷な競争や低賃金のため、消費する時間もカネもない若い世代が増えている。「997(午前9時から午後9時まで週7日勤務)」「7117(午前7時から午後11時まで週7日勤務)」というパターンすらある。

 政府が市民に「遊べ、カネを落とせ」と号令をかけても、時間とカネがなければ実現できない。「夜遊び方改革」を実現するには、まず「働き方改革」が必要とされている。(c)東方新報/AFPBB News