【11月28日 AFP】ブラジル北東部パライバ(Paraiba)州の海岸に最初に原油が漂着したのは、8月の終わりだった。それ以降、北東部9州で漂着を確認、海岸、砂洲、マングローブといった手付かずの自然が汚染され、海洋生物が被害を受けた。ブラジル史上最悪の原油流出だ。

 原因はまだ分かっていない。だが、ギリシャ船籍のタンカーがこの惨事を引き起こしたとみられている。被害を受けた地域は、報道機関の大半が拠点とする各州都から遠く離れているため、この被害の写真を入手するために、AFPのリオデジャネイロ(Rio de Janeiro)支局は、地元の才能ある写真家たちを探し出した。彼らの話を紹介しよう。

ブラジル・バイア州コンデのポセスビーチで、原油の除去作業を行うボランティアら。ドローンで撮影(2019年10月27日撮影)。(c)AFP / Mateus Morbeck

■ペルナンブコ(Pernambuco)州のレオナルド・マラファイア(Leonardo Malafaia)氏

 私が生まれ育ったのは、ブラジル・ペルナンブコ州の沿岸だ。10月21日にイタプアマ(Itapuama) ビーチで写真を撮っていた。私はこのビーチが大好きで、最初にサーフィンを覚えたのもここだった。

 撮った写真のうちの一枚は地元のティーンエージャー、エバートン・ミゲル・ドス・アンジョス(Everton Miguel dos Anjos)さんだ。黒い水の中から現れた彼は、胸の周りに油まみれのごみ袋をまとい、落胆した表情を浮かべていた。このビーチで、彼の母親が屋台で食べ物を売っているので、掃除を手伝いに来ていたのだ。

ブラジル・ペルナンブコ州カボデサントアゴスチーニョのイタプアマビーチで、原油をすくい上げながら浜に上がる少年(2019年10月21日撮影)。(c)AFP / Leo Malafaia

 リオの写真部長から、私の写真が世界中に出回っていると伝えられたとき、信じられなかった。写真は一気に広まり、国内外のメディア、例えば英国のガーディアン(Guardian)などで、週のベスト・フォトに選ばれた。フランスのリベラシオン(Liberation)など複数のメディアでは、誰もがうらやむ見開きページの写真になった。

ブラジル・ペルナンブコ州パウリスタのジャンガビーチで、原油の除去作業を行うボランティア(2019年10月23日撮影)。(c)AFP / Leo Malafaia

 これらのビーチはわれわれのアイデンティティーにとって、欠く事のできない一部だ。それが汚されたのを見るのは悲しい。私はこの沿岸で育ち、祖父はここで漁師をしていた。この海岸地域は数百人の人々の生命線なのだ。今後、何年にもわたりこの影響を受けることになる。こんなことが起きて、胸がむかむかしている。

ブラジル・ペルナンブコ州カボデサントアゴスチーニョのイタプアマビーチで、原油の除去作業中に、原油から足が抜けなくなったボランティア(2019年10月21日撮影)。(c)AFP / Leo Malafaia

■バイア(Bahia)州のアントネッロ・ベネリ(Antonello Veneri)氏

 原油は至る所にくっ付く。体から拭おうとしても、できない。皮膚にくっ付き、装備品にくっ付き、あらゆる物にくっ付く。

ブラジル・バイア州サルバドルのペドラドサルビーチで、岩から原油を除去するボランティア(2019年10月19日撮影)。(c)AFP / Antonello Veneri

 私はバイア地方に10年ほど住んでいる。原油流出の画像を初めて撮ったのは、バイア州の州都サルバドル(Salvador)のピトゥーバ(Pituba)ビーチで、使ったのはスマートフォンだった。私が集中的に撮影したのは、清掃に協力していたボランティアの人たちの作業だった。

ブラジル・バイア州ラウロデフレイタスのリゾート、ポルトオブブスカビダ近くの海岸で、原油を除去するボランティア(2019年11月3日撮影)。(c)AFP / Antonello Veneri

 アフリカ系ブラジル人のほぼすべての宗教にとって、この地方は聖地だ。私はこの地にかなり長くいるので、このビーチや岩石が原油で覆われたのを見ると胸が痛む。

ブラジル・バイア州ラウロデフレイタスの海岸で、原油を除去するボランティア(2019年11月2日撮影)。(c)AFP / Antonello Veneri

■バイア州北部のマテウス・モルベッキ(Mateus Morbeck)氏

 これは恐ろしい大惨事だ。写真を撮りながら、自分でもビーチを掃除しているのに気が付いた。最初は、どうやって原油を取り除けばいいのか分からなかった。防護物も、手袋も、マスクも何もなかった。人々は素手で掃除しようとして、気を失ったり吐いたりする人が出始めた。そうこうしてようやく、自らを守るすべを学んだ。

ブラジル・バイア州カマサリのジャウアビーチで、原油を除去するボランティアら。ドローンで撮影(2019年10月17日撮影)。(c)AFP / Mateus Morbeck

 今では二つのかばんを持ち運んでいる。一つには撮影機器とドローンが入っており、もう一つには原油から身を守る道具が入っている。ガスマスクと手袋、それに長靴だ。

 アイスクリームの拭き掃除をしている感じだ。敵が誰なのか、いつまでわれわれを襲い続けるのかも分からない。

 ボランティアの人たちがメッセージアプリ、ワッツアップ(WhatsApp)のグループを作り、作業の調整や、作業場所の連絡などに使うようになった。それ以降、私は忙しい。

 このコラムはブラジル・リオデジャネイロ支局のマウロ・ピメンタル(Mauro Pimentel)記者が執筆し、11日14日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。

ブラジル・バイア州サルバドルのペドラドサルビーチで、原油の下を泳ぐ魚(2019年10月18日撮影)。(c)AFP / Mateus Morbeck