【12月8日 AFP】エレナさん(39)はそれまでも、夫に首を絞められたり殴られたりはしていた。だが、夫がまだ赤ん坊だった双子の娘の一人をベッドにたたきつけるのを見て、ようやく家を出る決心がついた。8年前のことだった。

 匿名を条件にAFPの取材に応じたエレナさんは、別居中の夫と口論になり首を絞められた時の感覚を今でも覚えている。「首をつかまれ窒息しそうになったり、壁に体を押し付けられたりした。その様子を赤ん坊だった娘の一人が見ていた。娘たちが傷つけられたかもしれないと思うとぞっとした」

 そして、家を出ていく決心をさせた出来事が起きた。「夫は娘の一人をつかまえて、ベッドに投げ飛ばした…まだ身を守るすべを知らない赤ん坊なのに」。エレナさんはすすり泣きながらそう語った。

 メキシコは女性にとって、最も危険な国の一つだ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)によると、メキシコは女性や少女を標的とした殺人「フェミサイド」が中南米で最も多いという。

 メキシコは2007年、世界に先駆けフェミサイドを犯罪と認定した国の一つだが、まん延する女性に対する暴力に歯止めをかけられないのが現状だ。国連(UN)のUNウィメン(UN Women)によると、メキシコでは毎日9人以上の女性が殺害されている。

 家を出ることでエレナさんは、娘も自分も危険から逃れることができたと思っていた。だが、それも最近になって学校の周りを見知らぬ男たちがうろついていると携帯電話で連絡を受けるまでのことだった。この電話によって、暴力と無力感に苦しんだつらい記憶が一気によみがえってきた。