【12月4日 AFP】圧倒的な男社会のモータースポーツの世界で、女性カーレーサーとして新たな足跡を残した選手がいる。流線型の電気SUVに乗り込む女性の名は、リーマ・ジュファリ(Reema Juffali)。サウジアラビア国内のレースに、同国出身の女性として初めて出場した27歳だ。

 サウジアラビアと言えば、世界で唯一女性による車の運転が禁止されていた超保守的なイスラム教国で、2018年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(Crown Prince Mohammed bin Salman)の打ち出す開放路線の一環として、ようやく禁止措置が解かれたばかり。そんな国で、女性がアドレナリンをほとばしらせながらレースに臨む姿は想像がつきにくいかもしれない。

 しかしジュファリは、運転が解禁されたわずか数か月後にはレーサーデビューを果たし、そして先月末、サウジアラビアの首都リヤド近郊で行われた電気自動車の大会「ジャガー I-PACE eTROPHY(Jaguar I-PACE eTROPHY)」に出場した。主催者が「VIP」と呼ぶ招待選手の扱いだったが、サウジアラビア国内でレースに出場した同国女性はジュファリが初めてだ。

 レース会場となったディルイーヤ(Diriyah)のサーキットそばで、レーシングスーツ姿でAFPのインタビューに応じたジュファリは、黒と緑に塗装されたジャガーの運転席に座りながら、「運転が解禁されたのは昨年で、プロのカーレーサーになれるとは夢にも思いませんでした。だから今こうしていられるのが…信じられません」と話す。

 スポーツ省に相当するゼネラル・スポーツ・オーソリティー(GSA)で総裁を務めるアブドルアジズ・ビン・ツルキ・ファイサル・アル・サウード(Abdulaziz bin Turki Al Faisal Al Saud)王子も、レース前、ジュファリの出場はサウジアラビアの「分水嶺(れい)」だとたたえ、「リーマには、プロのレーシングドライバーとして大きな声援が送られるでしょう」と話していた。

 サウジ西部の街ジッダ(Jeddah)で生まれたジュファリは、10代の頃から車のスピード感に魅了され、フォーミュラワン(F1、F1世界選手権)を見て育った。

 数年前には、学業のため移り住んだ米国で運転免許試験に合格。その後、プロレーサーとして活動するのに必要なサウジアラビアの「レースライセンス」を獲得すると、今年4月には英ブランズ・ハッチ(Brands Hatch)で行われた英国F4選手権(F4 British Championship)に出場したが、プロとしてのレース経験はまだ1年ほどしかない。

 国外のレースに目を向けても、プロとして活動するサウジアラビア女性はごくわずかだ。その理由について、ジュファリは「運転を学ぶ機会がこれまでなかった多くの女性にとって、ハンドルを握るのはとても怖いことです」「サウジ女性の多くにとって、運転は遠い世界の出来事なんです」と話す。

 それでもジュファリは、モータースポーツの中でもとりわけ過酷で、同時に有数の権威を持つ大会、ルマン24時間耐久レース(Le Mans 24 Hour Race)にいつか出たいという夢を口にしている。(c)AFP/Anuj Chopra