■「心はデモ参加者とともに」

 バグダッドやイスラム教シーア派(Shiite)が多く住む南部地域では、失業率の高さ、劣悪な公共サービス、汚職などに抗議する大規模な反政府デモが10月1日から繰り広げられている。一方、スンニ派(Sunni)が多数を占めるモスルでは、社会的・政治的圧力もあり、抗議活動は行われていない。

 ミュージックビデオの監督を務めたアブドゥラフマン・ルベイェ(Abdulrahman al-Rubaye)さん(25)は、「この歌は、私たちの心はデモ参加者とともにあるということを伝える、モスルからの連帯のメッセージだ」と語った。

 ミュージックビデオを制作した14人のチームのリーダーを務めるムハンマド・バクリ(Mohammed Bakri)さん(26)はAFPの取材に対し、バグダッドや南部の人々のように通りに出てデモをしたいと夢見ているが、「モスルの状況は特殊で、抗議活動はできない」と話す。

 長年の内戦と行政機関の怠慢から公共サービスは壊滅的な状況になっているが、イラク北部と西部のスンニ派の人々は、抗議活動からは距離を置いている。

 2014年から3年に及ぶISによる支配と戦闘で、モスル周辺の公共インフラは荒れ果てている。だが、通りで抗議活動を行おうものなら、ISのシンパだとみなされ、反テロ罪で死刑となる可能性もあると住民らは指摘する。また、2003年に米軍が主導する有志連合によるイラク侵攻によって失脚した独裁者サダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領の支持者だと思われる恐れもあるという。

 このような状況で、通りで抗議活動を行うという選択肢がなかったバクリさんたちは、ミュージックビデオを作ることを思いついた。「私たちはアートという自分たちなりの方法でデモを支援できる。これなら、全イラク国民の名において声を上げることができると思った」とバクリさんはAFPに語った。

 バクリさんのチームはわずか12時間でミュージックビデオを制作し、当局がインターネットを切断する直前にアップロードすることができた。

 抗議デモでは、300人を超える人々が犠牲になっている他、活動家らは脅迫や誘拐、襲撃の標的にもなっている。

 ルベイェさんは、イラクの人々は勇敢に立ち向かうようになっていると話す。「人々は自信を持つようになった。私たちは何が起きても沈黙することはない。もはや恐れることはない」 (c)AFP/Raad al-Jammas