【11月13日 AFP】米航空宇宙局(NASA)は12日、「ウルティマトゥーレ(Ultima Thule)」の愛称で知られる、これまで宇宙探査機が訪れた中で最も地球から遠い天体「2014 MU69」の正式名称を「Arrokoth」にすると発表した。ウルティマトゥーレという愛称は、ナチス・ドイツ(Nazi)を連想させるとして物議を醸していた。Arrokothは、米先住民族パウハタン(Powhatan)の言葉で「空」を意味する。

 この天体は氷に覆われており、冥王星から約10億マイル(約16億キロ)離れたところにある暗い極寒の天体領域「カイパーベルト(Kuiper Belt)」内の軌道を周回している。今年1月にNASAの無人探査機「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」がフライバイ(接近通過)し、初の詳細画像の撮影に成功。この画像から二つの球体がくっついた雪だるまのような形をしていることが分かった。

 ニュー・ホライズンズのチームはこの天体を、欧州の中世文学に登場する見知らぬ世界に存在する伝説の極北の地「トゥーレ」にちなみ、ウルティマトゥーレという愛称で呼んでいた。

 だが、トゥーレという言葉は20世紀初めにドイツの極右カルト集団「トゥーレ協会(Thule Society)」によって、「アーリア人」の住む古代の伝説的極北の国の意味で使われていたことから、この愛称は激しい反発を招いた。トゥーレ協会は、独裁者アドルフ・ヒトラー(Adolf Hilter)が党首を務めたナチ党の母体となったため、トゥーレという言葉はいまだに新極右勢力オルト・ライト(オルタナ右翼)の間で人気が高い。

 新名称は、ニュー・ホライズンズのチームが選定し、国際天文学連合(IAU)によって承認された。新名称は12日、NASA本部で開かれた式典で公にされたが、NASAはその後に出された発表でも、ウルティマトゥーレという愛称に対し批判があったことについては特に言及していない。

 NASAは新名称について、この天体を発見したハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope)が運用されている地で、ニュー・ホライズンズ探査ミッションが拠点とする米メリーランド州の文化にちなんだものを選んだと説明している。同州のチェサピーク湾(Chesapeake Bay)にはパウハタンが暮らしており、新名称についてはパウハタンの長老の同意も得ているという。

 NASAはAFPの取材に対し、ウルティマトゥーレはそもそも愛称にすぎなかったと強調したが、この愛称をめぐり議論があったことについてはコメントしなかった。

 映像は地球から最も遠い天体「Arrokoth」の画像や模型。同天体が雪だるまのような形をしていたことをNASAが発表した時の資料映像、NASA TV提供。(c)AFP