【11月9日 東方新報】東京大学(University of Tokyo)教授で元上海総領事の小原雅博(Masahiro Kohara)氏の著作「日本の国益」中国語版が2019年10月、上海人民出版社から翻訳・出版された。同書の原書は、講談社から2018年に出版され、国際秩序の中での国際的利益と国家の利益の関係について述べたものだ。

 小原氏は2013年9月に在上海総領事として赴任、当時は日中関係が冷え切っていた時期だった。小原氏が最も頭を悩ましたことは、どうしたら国民が冷静に両国間の関係に対応するかだった。

 一方、学者としての小原氏は、原点に立ち戻り、「国益」の観点から一種の共栄の新しいモデルを探そうと試みた。

 小原氏は、同書の初頭から一種の「開放的な国益」を提唱。2013年に日本政府が頒布した「国家安全保障戦略」を引用し、自由と民主主義を共通の価値とする国際秩序を維持することこそが日本の国益であると説いている。

 小原氏の観点からみると、「国益」というものはいまだかつて固定的概念であったことはなく、絶えず変化するものとしている。

 テロリズムが米国を疲労困憊(こんぱい)させ、中国の勃興は客観的に米国を中心とする国際秩序に対する挑戦となっている。冷戦時には境が明確だった国家関係が、曖昧なものに変わってきているという。

 大国間の国力が変化する時代には、関係の安定は「戦略的抑制」と「共通のルール」に依拠すべきで、後者には「公正さ」と「相互主義」が反映されねばならない。米中間に競争と摩擦が存在することは避けられないが、ともに世界のために大国の責任を担わねばならない。自国の利益を考えると同時に世界の利益に配慮し、トゥキディデスの罠に陥ることが無いよう気を付けなければならない、と小原氏は説いている。

 変動する国際秩序の中で、日本がどのように国益を守るかについて、小原氏は最もロジックにかなった回答は「日米同盟+α」であり、この「+α」は中国抜きであってはならないと説いている。日本は二つの大国の間にある「辺境国家」として、「開放的」で、排他的でない戦略をとるべきであり、「日米同盟+α」の枠組みの中で、積極的に米中関係に参画すべきだとしている。国際的秩序が揺れ動く時代では、「開放的な国益」こそが日本外交の基本思考だという。(c)東方新報/AFPBB News