【10月30日 AFP】ベトナム人のクオン・グエン(Cuong Nguyen)さん(41)は、英国で大麻の違法栽培に長年にわたって従事していた。クオンさんのように、英国の数十億ドル規模の違法大麻産業に従事するベトナム移民は数千人いるとされる。

 しかし、より良い生活を求めて欧州を目指す不法移民は極度の危険にさらされる。英南東部エセックス(Essex)州では23日、トラックのコンテナから39人の遺体が見つかる事件が起きた。現時点では、犠牲者の多くがベトナム人と考えられている。

 クオンさんはすでにベトナムに戻っている。このほどAFPの取材に応じ、不法移民としての自らの経験を語った。

 取材でクオンさんは、トラックの底に隠れて英国に潜り込み、民家やホテル、馬小屋などで大麻栽培を行っていたことを明らかにした。大麻の違法栽培に従事したのは、すべて大きな夢のためだったとしながら、「とにかく稼ぎたかった…合法、違法にかかわらず」と当時の心境にも触れた。

 専門家らによると、英国の大麻市場の背後にはベトナムの犯罪組織が存在しているとされ、その取引規模は年間26億ポンド(約3600億円)にも上るとされる。

 またクオンさんは自らの意思で英国に行ったと話すが、だまされて人身売買の犠牲となり、このような犯罪組織に捕らわれてしまっている人も大勢いる。

■危険な旅

 クオンさんの危険な旅はベトナムの港湾都市ハイフォン(Haiphong)から始まった。その後、ベトナム移民がよく使うルートをたどって英国に入ったという。

 いわゆる小悪党でドラッグ常習者だったクオンさんは、29歳の時に英国に行くことを決めた。大麻取引で稼げると考えたのだ。仲介業者に1万5000ドル(約160万円)を支払い偽の旅券を手に入れ、欧州へのツアー旅行に紛れ込んだ。

 フランスでツアーから抜け出し、カレー(Calais)に行った。そこでベトナム人の密入国を仲介する業者が海峡を越えて英国まで行く手配をした――トラックの底に隠れるという方法だった。「落ちたらもちろん死ぬ」とクオンさんは言い、他の3人のベトナム人移民と共に1晩かけて英ドーバー(Dover)に向かったと話した。

 初めての国で、英語も話せなかったため、クオンさんにできることは限られていた。再び仲介業者に助けを求め、イングランド・ブリストル(Bristol)郊外の住宅に設けられた大麻栽培工場で働くことが決まった。

 半年後、栽培工場があった地域に警察の手が伸びた。クオンさんは持てるだけの大麻草を持って急いで逃げた。そして今度は、ブリストル近郊のホテルにあった大麻栽培工場で再び働き始めた。ここでは1万9000ドル(約200万円)近く稼いだという。これは、ベトナムでの給料と比べれば一財産だ。

 ベトナム移民の大半は、貧しい中部出身だ。多くは英国を目指し、稼いだお金は国に仕送りをしている。仕送りは新しい車やオートバイ、家を建て直すために使われる。