編集部注:このコラムには、パート1があります。
【記者コラム】中国の過去と現在(パート1)

【10月29日 AFP】テクノロジーの活用も爆発的に拡大した。初めて中国に来たときは、クレジットカードの使用はほぼ不可能だった。現金を手に入れる方法はただ一つ、北京の中国銀行(Bank of China)のたった一つしかない専用窓口の行列に並ぶことだった。

中国の100元札。北京で(2017年2月撮影)。(c)AFP/ Fred Dufour

 当時は2種類のお金があった。一つは「人民元」、すなわち皆が使う「人民の金」で、もう一つが「外貨券(FEC)」だ。外国人にはFECの使用が義務付けられ、かなり割高だった。観光地を訪れる際には、FECを使わなければならないだけでなく、中国人観光客よりずっと高い入場料金を支払わなければならなかった。私は一度、この制度に逆らい、巨大な麦わら帽子をかぶって故宮博物院(Forbidden City、紫禁城)に潜り込もうとしたが、誰の目もごまかすことができず、しぶしぶ外国人料金を支払う羽目になった。

 今ではFECはなくなり、ほぼすべての支払いがスマートフォンでできる。北京の最後に残った村市場の一つで玉ねぎを買うときも、私はスマホを使い、この国の隅々まで浸透した「微信(ウィーチャット、WeChat)」アプリで売り手のQRコードをスキャンして支払いをする。

どこに行ってもスマートフォン。北京で(2016年6月20日撮影)。(c)AFP/ Greg Baker

どこに行ってもスマートフォン。北京のエスカレーターで(2016年7月15日撮影)。(c)AFP/ Greg Baker

 中国で変わっていないのは、市民が入手できる情報を政府がしっかり握っていることだ。フェイスブック(Facebook)やグーグル(Google)、ツイッター(Twitter)などのサイトをはじめ、政府が反体制的とみなす情報へのアクセスは遮断されている。ここに、今日の中国におけるパラドックスがある。一方で、西側に勝るとも劣らないほど発達した国でありながら、他方では政治的には、1949年の毛沢東(Mao Zedong)国家主席による中華人民共和国建国の宣言のときに確立されたのと同じ制度に、はまり込んだままなのだ。

 それどころか政府の権威主義的な体質は、2012年から政権にある習近平(Xi Jinping)国家主席の支配の下、強化されている。毎日の儀式である国営テレビの午後7時のニュース放送は変わらないままだ。装飾も同じ、時には20年前と同じアンカーが登場する。内容はどうか。ある学生の友人は「わが指導者がどんなに恐れ多いかを示すのが3分の1、わが国がどんなに偉大かを示すのが3分の1、外国はどんなに悪いかを指摘するのが3分の1だ」と説明する。

監視中──北京西駅の中央構内で行き交う利用客を見張る兵士(2018年2月10日撮影)。(c)AFP/ Fred Dufour

 だが、以前は放送時間がこの国の指導者らの間で分割され、国家主席の割り当ては放送開始時の5分間、首相は3分間、以下その他となっていた。今日では、常時すべてが習近平国家主席だ。時々、ニュースチャンネルは、習氏が話すのを映さないことさえある。群衆が賢明かつ敬愛する指導者に、熱狂的な喝采を送る画面だけを流すのだ。

どこに行っても習近平国家主席。北京郊外で(2019年9月25日撮影)。(c)AFP/ Wang Zhao

 もう一つ、変わっていないのは外国メディアに対する不信だ。ある日、北京で幼児2人を連れた若いカップルに出会い、世界一の人口大国での子育ての難しさについて話が始まった。時は2016年、中国が長年続けた一人っ子政策を廃止したばかりで、複数の子どもを持つ人に会うのはまだ非常に珍しかった。そのカップルと数分ほど友好的な会話をした後、私は自分が外国のジャーナリストであり、複数の子どもを持つカップルに関する長い記事の取材でインタビューしたいと話を持ち掛けた。

「外国のジャーナリスト」と言った瞬間、女性の顔つきが変わった。その変わり様は、まるで幽霊に出会ったかのようだった。彼女は素早く2人の子どもをピカピカのスポーツ用多目的車(SUV)に乗せてシートベルトを締め、走り去って行った。私はあらゆる変化から、外国のメディアと話をする恐怖は薄れているだろうと、とりわけ教養のある、このカップルのような中産階級の間ではそうだろうと考えていた。だが、共産主義国中国の慣習の一部は、打ち破り難いのだ。それどころか、過去3年間で私が理解したのは、当局に対する恐怖はさらに深まっていることが多いということだ。

北京で(2019年4月23日撮影)。(c)AFP/ Nicolas Asfouri

 特集記事のための中国南部への取材旅行で、その理由が分かった。

 まず言わなければならないのは、この国での外国メディアに許される活動の在り方は、わずかに改善しているということだ。われわれは現在、チベットを除けば、最初に地元当局から許可を受けなくてもどこにでもいける(チベットは唯一の例外だ)。

 とは言っても、たくさんの障害や規制手段が今もなお残っている。われわれの記者証の有効期間は1年だけだし、列車や空港、ホテルでは査証(ビザ)の提示を求められる。これにより、われわれの存在はすぐに地元当局に知られ、行く手が妨げられることが多い。中国南部への取材旅行はちょうどドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が選出される前で、取材班の一部が、トランプ氏の娘のイヴァンカ(Ivanka Trump)氏が手掛けるファッションブランド製品の製造工場の取材に出かけた。

 工場所有者はとてもオープンで、われわれ記者にかなりの取材を認め、労働者寮の夜間の写真撮影も許可してくれた。非常に良い取材ができた。だが、数か月後、英語の政府系日刊紙がわれわれに対して、中国のイメージを悪くしようとしたとして非難を展開したのだ。非難を展開したのだ。その根拠は何か。この英字新聞の主張によると、寮の写真は「盗み撮り」されたもので、工場のイメージをみすぼらしくしたというのだ。この記事の著者からわが支局にはコメントを求める連絡もなかったし、われわれの言い分を掲載して欲しいと文書で依頼しても、返事はなかった。

 だが、一番の心配は、政府系新聞の記事が、AFPの取材班に協力した人々に対して処置が講じられたと報じたことだった。その意図は明白だった。外国人記者と話をするなということだ。そのような「助言」を受ければ、若い母親が、あたりさわりのないライフスタイルについて取材をしようとした私と話すのを恐れても、なんら不思議ではない。

メディアはお断り──北京で開催の「一帯一路」フォーラムで、道路沿いを警備する人民武装警察部隊員ら(2019年4月25日撮影)。(c)AFP/ Nicolas Asfouri

 今この時代に中国に住んで仕事をするのはどんな感じかと尋ねられるたびに、ずっと楽になったが、以前ほど面白くないというのが私の答えだ。だが職業的な日常の不満はあるとはいえ、この地に魅了されていることは変わらない。そして、外国メディアの仕事は、国内報道が厳しい束縛を受けている国では、ますます重要となっている。表向きの説明から実情を引き出すのは、われわれの手にかかっているのだ。人口10億人を相手にする、ほんのわずかのわれわれの手に……

北京の玉淵潭公園で夕暮れのボート乗りを楽しむ人々(2019年3月24日撮影)。(c)AFP/ Nicolas Asfouri

このコラムは、AFP北京支局のパトリック・バエ(Patrick Baert)記者が執筆し、2019年10月3日に配信された英文記事の後半を日本語に翻訳したものです。