【10月11日 AFP】致死性感染症を引き起こすレトロウイルスが野生コアラの間で猛威を振るっているが、コアラが遺伝子レベルでそれに抵抗しているとの研究結果が10日、米医学誌セル(Cell)で発表された。非常に珍しい進化過程解明の一歩となる成果だという。

 有袋類であるコアラが最初にコアラレトロウイルス(KoRV-A)に感染したのは、数百年から数千年前で、感染はオーストラリア北部から始まり南部へと拡大した。もともとはコウモリから感染した可能性がある。

 KoRV-Aはコアラエイズ(KIDS)に関連している。KIDSは人間のエイズ(AIDS)に似ているが、エイズに比べて重篤性は低い。KoRV-Aに感染したコアラは致死性のがんや、不妊の原因となるクラミジアなどの二次感染を起こしやすくなる。このまま何も対策をしなければ、最終的にコアラが絶滅する可能性も懸念されている。

 レトロウイルスは、自身のゲノム(遺伝情報)を宿主のゲノムに挿入することで機能する。だが、KoRV-Aはエイズウイルス(HIV)とは異なり、宿主動物の精子や卵子が作られる生殖細胞に侵入する。これはKoRV-Aが次世代に受け継がれることを意味する。

 生殖細胞が病原体に感染するのは非常に珍しいが、これが進化の重要な推進力となっていることが、最近の研究で示唆されている。生殖細胞の病原体感染が人類の祖先に最後に起きたのは300万年前で、ヒトゲノムの8%は古代ウイルスに由来している。

 レトロウイルスは有益な目的のために取り込まれることもある。約1億年前にはレトロウイルスの1種が、人類の祖先にあたる哺乳類の胎盤の進化に寄与した。

 今回の研究で米マサチューセッツ大学医学部(University of Massachusetts Medical School)と豪クイーンズランド大学(University of Queensland)の科学者チームは、新たにレトロウイルスに感染したコアラに一種の「ゲノム免疫」が存在することを明らかにした。