【10月9日 AFP】世界銀行(World Bank)のチーフエコノミスト、ピネロピ・コウジャノウ・ゴールドバーグ(Pinelopi Koujianou Goldberg)氏は8日、AFPのインタビューに対し、長引く世界の貿易対立が投資を抑制し、その影響で経済成長が滞り、貧困が拡大する恐れがあるとの考えを示した。同氏の指摘は、経済が成長しなければ「不可避的に人々は苦しむことになる」というものだ。

 米国と中国の二国間貿易は数千億ドル以上の規模に上っており、両国の貿易戦争は世界的な貿易問題の中心となっている。だが、米国は貿易をめぐり欧州連合(EU)ともあつれきがある他、カナダおよびメキシコとの貿易協定も改定している。英国のEU離脱(ブレグジット、Brexit)も世界経済の不安材料だ。

 不確実性の広がりによる投資の減少は、特にアフリカなど貧困地域の成長をむしばんでいる。「これは貧困から抜け出せない国が出てくるということを意味する」とコウジャノウ・ゴールドバーグ氏は話し、「それだけではない。どうにかして貧困から抜け出して中所得国となった国々が、再び貧困国に逆戻りする可能性すら意味するものだ」と続けた。

 コウジャノウ・ゴールドバーグ氏は、「私たちの大半は(米中の)貿易摩擦は一時的な現象で、今頃は解消されていると思っていた。だが、貿易摩擦は時間と共にエスカレートした」と述べる。

■グローバル・バリュー・チェーン

 世界銀行は8日に公表した報告書で、貿易摩擦が悪化した場合、「(さらに)3000万人以上が貧困に陥る可能性がある」と警告している。世界銀行は1日5.50ドル(約590円)未満での生活が貧困と定義している。報告書によるとこれは、世界的に見て1兆4000億ドル(約150兆円)の所得損失に等しいという。

 だが、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)への参加を決めれば、貿易が貧困から抜け出す頼み綱となるとコウジャノウ・ゴールドバーグ氏は説明する。グローバル・バリュー・チェーンとは、企業が複数国にまたがって財・サービスの供給・調達を行う経済活動だ。

 発展途上国にとってグローバル・バリュー・チェーンは、最終製品を製造する先端技術や技術を必要としない付加価値の低い一種類の部品を製造することで、世界市場進出の足掛かりができるという利点がある。

 多くの国が、単純でシンプルな部品から付加価値の高い製品の製造に少しずつ移行して来た。コウジャノウ・ゴールドバーグ氏によると、中でも韓国とポーランドは比較的短期間に、非常に簡単な製造から技術イノベーションを必要とする経済活動に移行できたという。(c)AFP/Heather SCOTT and Delphine TOUITOU