■厳重な監視体制の重要性

 FDAが見つけたのは、対象遺伝子を改変するために用いるDNA断片のプラスミド配列だった。本来であれば見つかるはずのないプラスミドが牛のDNAの中に存在していたのだ。

 異質の断片がDNAに組み込まれていたという事実は、必ずしも家畜や消費者にとって危険だというわけではないと、FDAは指摘する。

 だが、FDAの動物生体工学・細胞療法部門を統括するヘザー・ロンバルディ(Heather Lombardi)氏は「目的外の改変が行われるならば、それは食物の組成に影響するだろうか」と問いかけた。「アレルギー誘発性や有毒性のようなものに何らかの影響が及ぶだろうか」

 いずれにしても、遺伝子編集技術の推進派が厳格な監視の緩和を強く求めている現状にあって、今回の発見は家畜に対する遺伝子編集ツール使用の厳重な監視体制を維持することの重要性を浮き彫りにしていると、FDAは説明している。

■性決定遺伝子

 予想外の遺伝物質の発見を受け、バン・エネナーム氏は遺伝子編集された雄牛5頭の殺処分と焼却を指示した。牛を生かしておくことによるリスクが高すぎると判断したのだった。雌の1頭も、出産後に分析対象となる乳を出すようになったらすぐに安楽死と焼却処分の措置が取られる予定だという。

 それでもバン・エネナーム氏によると、遺伝子編集には多くの有望な応用分野があるという。例えば、温暖化が進む世界で重宝されるであろう暑さに強い家畜や、中国の畜産業に壊滅的な打撃を与えているアフリカ豚コレラに耐性を示す豚などの開発だ。

 同氏は現在、雌形質の発現を阻害するSRY遺伝子の利用に関する実験を進めている。完全に雄だけの群れを作り出すことを目指しているのだ。

 何度か失敗したが、今年6月には「キャリア(保因)」牛の受精に成功した。2020年3月に特定の遺伝子を持った個体が誕生する予定だという。

 この研究における目標は、より多くの肉が期待できる雄のみの肉牛群や雌だけの乳牛群、さらには雌だけの鶏群などを育成できるようにすることにある。(c)AFP/Juliette MICHEL