【10月11日 AFP】80年前、ナチス・ドイツ(Nazi)の指導者アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)がノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)にノミネートされたことは、誰でもこの賞の候補となり得ることを物語っている。ナチスの総統から「キング・オブ・ポップ(King of Pop)」まで──ノーベル平和賞の120年近い歴史の中で候補となった人の中には、受賞しそうにない、あるいは候補になること自体があり得ないように思える人物もいる。

 1939年1月、ナチス・ドイツがポーランドを侵攻する約8か月前、スウェーデンの社会民主党のエリック・ブラント(Erik Brandt)議員(当時)は、ノーベル平和賞をヒトラーに授与すべきだとする書簡をノルウェーのノーベル賞委員会(Nobel Committee)に送った。ナチス・ドイツによるオーストリア併合やズデーテン危機のわずか数か月後に、ブラントはその書簡の中でヒトラーを「地球上の平和の君」と呼び、「(第三帝国の)輝ける平和主義者」だとたたえた。

 ブラント議員は後に、皮肉を込めてヒトラーをノーベル平和賞に推薦したのだと釈明し、チェコスロバキアの一部がナチス・ドイツに割譲された1938年のミュンヘン協定(Munich Agreement)に立ち会った英国のネビル・チェンバレン(Neville Chamberlain)元首相が候補となったことに異議を唱えた。

 ブラント議員は結局、その推薦を取り消したが、ヒトラーは今も候補者の一人として記録に残されている。

 ノーベル平和賞に詳しい歴史家のアスル・スビーン(Asle Sveen)氏はAFPに対し、「ヒトラーが推薦された史実は、緊迫した政治情勢下で皮肉を込めた試みがいかに危険かをはっきりと示している」と述べた。

 ノーベル賞委員会は、推薦状が1月31日の期限までに届いていれば、いかなる提案も受け入れている。だが、存命中の人物であれば誰でも候補者となり得る一方で、誰もが推薦状を提出できるわけではない。