【10月4日 AFP】事故で肩から下がまひしたフランス人男性が、脳信号によって制御するパワードスーツを装着し再び歩けるようになった。研究者らによると、四肢まひ患者に希望を与える大きな前進と言えるという。

 患者はアバターを使って、基本動作を実行する脳信号を制御する訓練を数か月にわたり行ってから、実際にパワードスーツを着て歩いた。

 実験を行った医師らは、実用化には時間がかかるが、患者の生活の質の向上や自立促進につながる可能性があると強調している。

 被験者となったのはフランス・リヨン(Lyon)出身のチボーさん(28)で、4年前にナイトクラブに出掛けた際、高さ12メートルのバルコニーから転落し脊髄を損傷、肩から下がまひした。チボーさんは今回の実験について、技術によって元気を取り戻すことができたと話した。

 患者の約20%が四肢まひとなるため、脊髄損傷の中で頸部(けいぶ)は最も深刻だとされている。

 論文の主執筆者で仏グルノーブル(Grenoble)にあるグルノーブルアルプス大学病院(Grenoble Alpes University Hospital)のアリムルイ・ベナビドゥ(Alim-Louis Benabid)名誉教授はまひについて、「脳に腕や脚を動かす信号を発する能力は残っており、それを実行できないだけだ」と説明した。

 実験では、チボーさんの頭部両側の脳と頭皮の間に埋め込まれたエンコーダーが、脳信号を符号化して伝達した。それをアルゴリズムが患者が考えた動作に変換し、パワードスーツに送り、実際の動きが実行された。

 チボーさんが歩行や物体に手を伸ばして触るといった基本動作を思い浮かべる訓練には、アバターとビデオゲームが使用された。練習を重ね、チボーさんはサッカー場の縦幅の1.5倍の距離を動けるようになったという。

 患者の筋肉を刺激するため、脳に機器を埋め込む研究はこれまでにも何度か行われているが、脳信号によってパワードスーツを動かす研究は今回が初めてとなる。

 研究結果は4日、英医学専門誌「ランセット・ニューロロジー(Lancet Neurology)」に掲載された。(c)AFP/Amélie BAUBEAU