【10月3日 東方新報】劉明康(Liu Mingkang)さん(16)は、7歳の時に「自閉症」と診断された。母は絶望的になったが、「失敗しても頑張る。ダメでも頑張る」の精神で母子は乗り切り、フランス人ピアニストのリチャード・クレイダーマン(Richard Clayderman)氏も認める、ピアノ演奏の才能を開花させた。

 劉さんは、東京で開催された「中華人民共和国建国70周年記念コンサート」に出演するために来日。関係者を交えたインタビューに応じた。

 劉さんの母は「息子が7歳のときに『自閉症』と診断され、大きなショックを受けた」という。苦悩から視神経を患い、暗い世界に入ってしまった。

「このままじゃいけない…」と劉さんが興味を示すことを必死に探した。そして「ピアノに興味を示すことを発見して、有名な先生のところに頼みにいったが、『自閉症の生徒の指導は無理』と断られた」と話す。しかし、「ダメでも頑張る。ピアノでなんとか道を切り開く」と、大好きなクレイダーマン氏の代表曲『渚のアデリーヌ』の譜面にラインマーカーで感情の抑揚などを書き込み、息子にピアノを教えた。

 転機を迎えたのは2014年。上海のテレビ局は、11歳の劉さんの母子のドキュメンタリー番組を放映した。困難に立ち向かう母子の映像と、ピアノの美しい音色に中国全土が感動した。番組を転機に、劉さんはさまざまな人からの支援を受け、自閉症の子どものヒーローとして色々な行事に参加するようになった。

 劉さんと長年深交する東京都日本自閉症協会(Tokyo Autism Society)の今井忠(Tadashi Imai)理事長は言う。「ダウン症の子と、自閉症の子は違う。ダウン症の子は他人と接し、友達もできて、興味があることも見つけられるが、自閉症の子は世間と隔絶してしまい、道を切り拓くのはすごく難しい」

 ヤマハ(Yamaha)は2017年12月に、14歳の劉さんの後ろ盾となることを決定し、「ヤマハ未来アーティスト」という特別な称号を授けた。演奏をするところに弾き慣れたピアノを毎回運び込むなどの支援をしている。

 ヤマハ中国の賀来正勇(Seiyu Kaku)氏とヤマハ本社・ピアノマーケティング部の黒沢国久(Kunihisa Kurosawa)氏は「自閉症の子どもたちとその家族に、音楽の力で何かしたい。劉明康さんの才能を広く伝えたい」という。

 2019年1月の新年音楽会では、クレイダーマン氏と劉さんはピアノ二重奏を披露した。7月に開催された韓国の芸術祭では、国連(UN)前事務総長の潘基文(Ban Ki-moon)氏に特別な歓待を受けた。

 賀来氏と黒沢氏は「最初に会った頃のお母さんは暗かった。『自閉症の息子を外の世界に出しすぎるのは…』という不安に怯えてもいた。しかし、外の世界に劉さんが出ていくにつれて、お母さんは次第に快活になっていった」と話す。また、「お母さんは、上海市に自閉症の子どもたちの芸術団をつくり上げた。現在約100人の子どもが、歌やダンス、絵描きなどの才能を発掘され、将来に夢と希望を持っている。『失敗しても頑張る』の努力を、家族と自閉症の友達たちと共にしている」と今井氏は語った。

 自閉症の人に対する政策と支援活動は、劉さんの家族の周囲を見ていると、社会を良い方向に導くことに大成功している。(c)東方新報/AFPBB News