【10月3日 AFP】オランダに定住した元エチオピア難民の男性が、18世紀に作られたエチオピア伝統の貴重な冠を21年間、自宅アパートに隠し持っていたことが明らかになった。今後、オランダからエチオピアに返還される予定だという。

動画:20年以上隠し続けた18世紀の冠 エチオピアに返還へ

 金銅でできたこの冠にはキリストと12人の使徒の姿が刻まれ、凝った装飾が施されている。元難民で現在はオランダ国籍をもつシラク・アスファウ(Sirak Asfaw)さんがオランダ人の美術調査員アルテュール・ブラント(Arthur Brand)氏に連絡を取ったことをきっかけに「発見」された。

 行方の分からなくなった数々の美術品を取り戻した実績から「美術界のインディ・ジョーンズ(Indiana Jones)」の異名をとるブラント氏は、冠は現在安全な場所に保管されており、近くエチオピア当局へ返還されると話した。

 この間の経緯について、シラクさんはオランダ沿岸部ロッテルダム(Rotterdam)の自宅アパートでAFPの取材に応えた。

 現在は経営コンサルタントとしてオランダ政府の仕事をするシラクさんは1970年代後半、エチオピアで起きていた「赤い恐怖(Red Terror)」と呼ばれる粛清から逃げ出した。そしてオランダに落ち着いたシラクさんは、パイロットや外交官をはじめ祖国の暮らしに耐えかねたエチオピア人を次々と受け入れていた。

 1998年4月、ある文書を探していたシラクさんは、客人の一人が残していったスーツケースの中に入っていた冠を偶然発見した。「スーツケースの中をのぞくと、何かとても素晴らしい物が見えた。それから、『あり得ない。これは盗まれた物に違いない。これはエチオピアになければいけない』と思った」

 シラクさんはその後スーツケースの持ち主と対峙(たいじ)し、冠は「エチオピアに返されるのでない限り、私の家を出さない」と言い放った。この人物の名をシラクさんは明かさなかった。

■「返せる時が来るまで」

 すぐにシラクさんは、当時まだ新しかったインターネット上のエチオピア人のチャットグループで、「あるエチオピアの文化遺物」についてどうすべきか、他のユーザーに尋ねてみたが、満足の行く答えは得られなかった。そこでエチオピアの体制が変わり「返せる時が来るまで」、冠の事実上の守護者になることを決心した。

 だがその後も同国の強権的な一党支配は続き、冠は21年間にわたって、シラクさんのアパートに保管されることになった。冠を「返しても、また消えてしまうだけだと分かっていた」とシラクさんは話した。

 転機が訪れたのは昨年のアビー・アハメド(Abiy Ahmed)首相の就任だったという。シラクさんはとうとう冠を返せるほど十分に状況が変化したと感じた。

 この冠を鑑定した専門家によると現存する同様の冠は20個以下で、「古代末期にまでさかのぼる習慣」において通常、国の高官から教会に寄付されていたものだという。(c)AFP/Jan HENNOP