【9月29日 AFP】米ハワイ(Hawaii)島で、先住民の聖地である火山マウナケア(Mauna Kea)の山頂に超大型天体望遠鏡「TMT」を建設する計画への反発が高まっている。天文学者らは、TMTの解像力はハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope)の10倍以上だと説明するが、抗議行動が拡大した影響で、工事の再開は数か月遅れている。

【特集】「猫の手星雲」に「魔女星雲」…神秘の天体ショー

 建設反対派は、総工費14億ドル(約1500億円)とされるTMTプロジェクトが実施されると環境が破壊されかねないと主張し、建設予定地で座り込みを行った。俳優のドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)さんやジェイソン・モモア(Jason Momoa)さん、ミュージシャンのブルーノ・マーズ(Bruno Mars)さんといった有名人も抗議行動への支持を表明している。

 TMTの建設は度重なる抗議行動で遅れ、完成予定は2027年にずれ込んでいる。建設反対派の指導者らは、TMTは反対意見の少ないスペイン・カナリア諸島(Canary Islands)などの代替地に建設する余地があるはずで、これが実現すれば誰もが満足できると主張している。

 ただ、フランス人天文学者でTMTプロジェクト運営トップのクリストフ・デュマ(Christophe Dumas)氏は、標高4205メートルで人里から離れ空が澄み切っているマウナケアは天体観測に適した世界有数の場所であり、TMTの「理想的な建設地であることに変わりはない」と話している。

 ハワイの現地語で「白い山」を意味するマウナケアには、すでに12機関が13基の天体望遠鏡を山頂やその周辺に設置しており、新たな発見や科学研究のよりどころとしている。科学者らはTMTが建設されると、観測可能な宇宙の端で宇宙の初期に生まれた銀河が探索できるようになると期待する。

 超大型といっても、望遠鏡の1基増設でそれほど大きな変化が生じるのかと疑問を投げかける向きもあるが、TMT建設に反対する人々は、もちろん大きな問題が生じると言う。

 ハワイ大学(University of Hawaii)のグレッグ・チャン(Greg Chun)マウナケア管理事務局長は、「反対運動のリーダーたちと話をすると、(TMTが)大き過ぎるということだけでなく、マウナケアには天体望遠鏡が多過ぎると言ってくる」と話し、地元の人たちはマウナケアの開発への懸念を繰り返し表明してきたが、それが顧みられることはほとんどなかったと説明した。

 状況を見守っている多くの専門家は、マウナケアをめぐる議論は天体望遠鏡の問題を超え、過去にないがしろにされたことやハワイの植民地時代の負の遺産から一部の地元の人たちの心に深く根を下ろした怒りを表していると指摘している。(c)AFP/Laurent BANGUET