【9月28日 AFP】リムさんは韓国に到着した時、貧困や望まない結婚といった惨めな生活から逃れ、娘とより良い生活が送れると思った。

 北朝鮮での困窮や抑圧から逃れて韓国に渡った脱北者は3万3000人を超える。大半は女性で、リムさんもその一人だ。北朝鮮では金一族が三世代にわたり圧政を敷き、その人権侵害が広く批判を集めている。

 仕事や勉強、子育てをしながら、以前と全く違う民主的な資本主義社会に溶け込むことは容易ではない。リムさんは「韓国での生活は、期待していたものとは正反対だった」と話す。

 韓国に来て9年たつが、リムさんはいまだにやりくりに苦労している。シングルマザーの脱北者数百人は皆、似たような状況だ。

 シングルマザーの窮状は、北朝鮮出身の母親と6歳の息子が死亡した事件により明らかになった。この母親はてんかんの持病がある息子の世話をしながら仕事を掛け持ちするのに苦労していたとみられ、2人はソウルのアパートで死後2か月たってから発見された。餓死したとみられている。

■悪循環

 脱北者の大半は、韓国へ行く前にまず中国へ向かう。長女だったリムさんは家族を養うため24歳で家を出た。だが、多くの脱北者らと同様、リムさんも人身売買の犠牲者となり、暴力的な中国人男性に売られ、その男性との間に娘を1人もうけた。

「監獄」のような暮らしが4年続いた後、リムさんは娘を連れてソウルへ逃れた。

 最初は雑用を引き受けて収入を得ていたが、娘の面倒を見てくれる人が見つからず、娘を預けることを余儀なくされた。自分の子どもや北朝鮮の家族に満足なことをしてあげられない罪悪感にさいなまれ、自殺を考えることもあった。

 リムさんは時々、自分の決断が正しかったのか疑うこともあるという。「時々、北朝鮮に帰りたくなることもある」。小さなアパートの一室で、リムさんはAFPにそう明かした。