【9月8日 AFP】第76回ベネチア国際映画祭(Venice Film Festival)は7日、米コミック「バットマン(Batman)」シリーズに登場する悪役ジョーカー(Joker)を主人公に抜てきした映画『ジョーカー』を最高賞の金獅子(Golden Lion)賞に選出した。銀獅子賞(審査員大賞)には、13歳の少女をレイプしたとして有罪判決を受けたロマン・ポランスキー(Roman Polanski)監督(86)の『An Officer and a Spy(英題)』が選ばれ、物議を醸した。

『ジョーカー』の監督を務めたのは、どたばた喜劇映画「ハングオーバー(Hangover)」シリーズで最もよく知られる米国人のトッド・フィリップス(Todd Phillips)氏。フィリップス監督はジョーカーを熱演したホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)に感謝の意を表し、「私が知る限り最も熱心かつ勇敢、柔軟な名優だ」「途方もない才能を私に預けてくれてありがとう」と述べた。

 ジョーカーのプレミア試写会から数時間とたたないうちに、母親と暮らす世をすねた貧しい大道芸人を演じるフェニックスの全力の演技は、インセル(不本意な禁欲主義者)と呼ばれ、女性への憎悪を募らせる若い男性たちを力づけかねないとの声が一部から上がった。インセルは、極右や白人至上主義者による暴力の温床として、激しく非難されている。

 13歳の少女に薬物をのませ、レイプしたとして有罪判決を受けたことで米映画界から追放されたポランスキー監督の『An Officer and a Spy』が銀獅子賞に選ばれると、会場からは息をのむ音が聞こえた。『An Officer and a Spy』は、フランスで起きた冤罪(えんざい)事件「ドレフュス事件(Dreyfus Affair)」を基にした作品。

 ポーランドとフランスの国籍を持つポランスキー監督は、ベネチア国際映画祭を欠席。同監督の妻で『An Officer and a Spy』にも出演した仏女優エマニュエル・セニエ(Emmanuelle Seigner)が代わりに賞を受け取ったが、拍手はなく散発的なブーイングが起きた。

 2017年の金獅子賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター(The Shape of Water)』と2018年の金獅子賞受賞作『ROMA/ローマ(Roma)』はそれぞれ、翌年のアカデミー賞(Academy Awards)でも複数の賞に選ばれた。また、ベネチア国際映画祭は『女王陛下のお気に入り(The Favourite)』や『ラ・ラ・ランド(LA LA LAND)』、『アリー/スター誕生(A Star is Born)』、『バードマン(Birdman)』などの飛躍のきっかけともなった。(c)AFP