2001年に3ドアで復活して以来、コンバーチブル、クラブマン、 5ドア、クロスオーバーとバリエーションを拡充し、新たなライフスタイル・カーの世界を築いてきたミニ。その中で最もミニらしいミニはどれかと問われれば、私は声を大にして”クラブマン!”と答えたい。
2008年3月2日のミニの日に初代、いや、1960年代末に登場したオールド・ミニのクラブマン・エステートから数えれば2代目となる復活クラブマンが本邦初上陸した時には、その斬新なスタイルに目を瞠ったものだ。初代に倣ってリア・ハッチを観音開きにしているのはともかく、ホイールベースを延ばして後席のスペースを拡げた上に乗降用のドアを片側だけ後席用も付けて、それも観音開きになっているのを見て、「フツーこんなことやるか!?」と、空いた口が塞がらなかった。だが、呆れながらも、私はこのクラブマンに惹かれるものを感じていたのだ。
やがて、「これぞ未だかつてない究極のライフスタイル・カーだ!」と考えるようになった。なにしろ二人しか乗れない後席は、決してアクセスも乗り心地もいいとは言えない微妙な存在だし、観音開きのリア・ハッチを開けても巨大な荷室があるわけではない。要するにカッコ優先。スタイルを楽しみたい人のためのニッチなクルマとしか言いようがない。「だから、イイ!」と思えたのだ。
乗ってみると、走りも3ドア・モデルより私の好みに合っていた。やたらと"ゴーカート・ライク"というフレーズを強調し、それに引きずられるように妙にピキピキと動くように仕立てられた3ドア・モデルの乗り味が少し鼻についた私には、ホイールベースが長くなり、ピキピキ感がほどよく薄れたクラブマンの走りは、まさにドンピシャのグッド・バランスのように感じられたのだ。
しかし、2015年に3代目クラブマンに生れ変わってからは、私の熱は少し冷めていた。より長くワイドなボディを得て、乗降用のドアもフツーの4枚に変更され、圧倒的に使い勝手が良くなったのと引き換えに、強烈な個性も薄まってしまったと思えたからだ。そんな中で今回、フェイスリフトしたクラブマンの国際試乗会に行きませんか、というお誘いにふたつ返事で「行きます」と答えたのは、かつて惚れたクルマが いま、どうなっているのか、確かめてみたいという思いがあったからだ。
フランクフルトで開かれた国際試乗会のプレス・カンファレンスで披露された、ミニの総販売台数に占める各バリエーションの割合の数字はすこぶる興味深かった。一番多いのはSUVのカントリーマン(日本名 クロスオーバー)で33%、続いて3ドアの27%、3番目が5ドアで18%、そしてお目当てのクラブマンは14%、最後がコンバーチブルで8%だという。すなわち、ファミリー・カーとしての使い勝手がもっとも優れるSUVのクロスオーバーが全体の3分の1を占め、続く3ドアも足すとちょうど6割。さらに5ドアも加えた時点で8割近い数字になる。
逆に言えば、この20年弱の間に世界を席巻したミニ・ワールドの中で、クラブマンはカブリオレと並んで、あくまでもニッチな存在として、ライフス タイル・カーとしてのミニのイメージを訴求する役割を担ってきたことになる。「だからこそイイんだ!」と私は改めて思った次第である。今回の試乗会で乗ることができた新型クラブマンは、ジョン・クーパー・ワークス・モデルのみだった。でも、それはそれで良かったと思う。文字通り、ほぼお化粧直しの域を出ない改変となった今回のフェイスリフトの中で、一番大きな進化を遂げたのがJCWだったからだ。
すでにフェイスリフトを済ませたほかのモデル同様、クラブマンも見た目の変更点は、ヘッドライト・ユニットの外周部に組み込まれたデイタイム・ランニングライトが完全に1周するリング状になったことと、リア・コンビネーション・ライトにLEDが採用され、ユニオンジャックのデザインになったことくらいだ。あとはグリルとドアミラーのデザインも変わったというが、新旧並べて見比べないとわからないレベルだ。
しかし、ことJCWに関しては、それに加えて中身が大きく変わっている。まず、エンジンがBMW135iやX2Mと同じ2ℓ直4ターボとなり、なんと先代比+75psの306psのパワーと+10.2kgmの45.9kgmのトルクを得ているという。それに組み合わされるトランスミッションも新しい8段ATで、通常は前輪のみだが、少しでも前輪が滑れば電子制御の多板クラッチを使った4WDシステムを介して最大50%のトルクを後輪にも配分する。
パワー増強に合わせて、足回りも大幅に強化されており、フロントに初の機械式LSDが組み込まれた。さらにブレーキも強化されたものに換装され、排気システムもエンド・パイプが10mm太くなるなど、より素晴らしいサウ ンドを響かせるようになっている。
走り始めてすぐに感じられたのは、エンジンのパワー&トルクの出方といい、聞こえてくる音といい、足の硬さといい、想像以上にスポーティな仕立てになっているということだった。街中での通常の速度域では、たとえドライブ・モードをノーマルにしていても、路面の荒れに敏感に反応して突き上げてくる。
試乗車は 日本仕様とは違うランフラット・タイヤを履いていたせいもあるのかもしれないが、路面に吸いつくようなフラットな乗り心地になるのは、日本の高速道路のリミットを超えた速度からだ。しかし、そこから先の領域での走りの気持ち良さは、さすがBMWがつくっただけあると言えるものだった。どこから踏んでもスムーズに吹け上がるエンジンといい、8段ATの変速マナーといい、洗練されたスポーティさを持っていて、文句のつけようがない品質感がある。
BMWと違うのはステアリングの感触で、こちらの方がセンター付近がややナーバスで微妙な操作にクルマが敏感に反応する。しかし、切り込んでいくと決してギア比が速いわけではなく、あくまでも味付けの問題であることがわかる。そして、コーナリング時には、硬いフロアがあまりロールすることなしにスッと向きを変える感覚で曲がっていく。これは2001年以来の新しいミニ伝統の乗り味だが、最初に比べたらずっと洗練されたものになっていると思う。
ワインディング・ロードを走っている時に、LSDの存在を感じる瞬間があった。ステアリングが少し切れた状態でスロットルを開けていくと、ホイールスピンもせず、トルクステアも出ることなく、そのままグイグイグイッと前に出て行こうとする。ちょっと不自然な感触で、果たしてサーキットを走るわけでもないのにこんなものが必要なのか、と疑問に思わないでもなかった。
しかし、走っているうちに、「 いや 、これでいいのだ」と思えるようになってきた。もちろん、クラブマンでサーキットを走る人はいないだろう。でも、こんなカッコウをしたクルマが、3ドアのミニよりパワフルなエンジンを持ち、LSDまで備えているところに、ミニのミニたるゆえんがあるのかも知れないからだ。あの不思議なリア・ドアは失っても、依然としてクラブマンは常識では測れない独自のスタイルと走りを持っている。これぞライフスタイル・カー、と言うべきだろう。
ミニJCW クラブマン
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=BMW A.G.
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