【10月13日 AFP】今年6月、ナイジェリア北部で6歳の少年が誘拐され、遠くに連れて行かれ売られようとしていた。だが、少年を買おうとしていた人物は取引から手を引いた。

 人身売買組織から少年を守ったのは、生まれた時に頬に刻まれた「部族の印」だったと警察は述べた。買い手はこの傷から少年の身元が明らかになることを恐れ、購入を拒否したのだという。

 この事件は、1980年代から徐々に消えつつあった部族の印の習慣に再び注目を集めた。「オルーラ(Oloola)」と呼ばれる伝統的施術師らは、子どもに対する危険な虐待だと非難されてきたこの習慣の利点が示されたと主張した。

 ナイジェリア南西部イバダン(Ibadan)のオルーラ、マショパ・アデクンレ(Mashopa Adekunle)さんは「今では誰も自分の子どもに部族の印をつけたがらない。呪術的で不衛生な古めかしい習慣だと思われている」と話す。

■「印」をめぐる論争

 顔に刻む伝統的な印は部族により異なっているが、施術は男子にも女子にも行われる。子どものうちに肌を焼くか、切り込みを入れる方法が取られている。

 ナイジェリアには南西部ヨルバ(Yoruba)から東部イグボ(Igbo)、北部ハウサ(Hausa)まで部族の印を入れる習慣があるが、その目的は身元の証明や治療、霊的保護、装飾などさまざまだ。

 オルシェグン・オバサンジョ(Olusegun Obasanjo)元大統領といった著名人も頬に部族の印がついている。内戦時代には敵味方を区別する上でも役立ったとアデクンレさんは語る。

 アデクンレさんは、西洋風のタトゥーを入れる若者が増えている中で伝統的習慣を意味のある形で残したかったら、時代に合わせて変わらなければいけないと認める。

 ナイジェリア議会では2017年、「顔に傷をつける行為を禁止する法案」が議論された。部族の印を施した人を罰し、危険な状況にある人を保護しようとするこの法案の審議は現在、中断している。

 法案支持派は、顔に傷をつける行為は「野蛮」で一生醜い傷が残り、エイズウイルス(HIV)感染の危険もあると主張している。ある女性は「私は自分の子どもに絶対、部族の印を入れたくない。古くさいし、体に有害だ」と述べた。

 イバダンにあるオルーラ継承者協会(Oloola Descendant Association)によると、顔に傷をつける習慣は約40年前から徐々に減ってきている。1980年代には1人のオルーラが1か月当たり10人近くに部族の印を施していたが、今では1か月に1件あるかないかの状態だ。

 貿易業を営むダウダ・ラワル(Dauda Lawal)さん(60)は、両親が子どもの頃に施してくれたという顔の傷を誇らしげに見せながら、自分の子どもの顔にも進んで傷をつけたと話す。

「私は長男だったため、両親が部族の印を入れてくれた。この習慣は廃れてきてはいるが、自分の長男にも家族のアイデンティティーを守るために傷を入れた」と話す。だが、ラワルさんの息子がその子どもに同じようにするかどうかは分からないという。(c)AFP/Joel Olatunde AGOI