【9月6日 東方新報】中国が建国後初めて制定した国家級の勲章「共和国勲章」の第1次候補者リストが8月27日に発表された。顔触れを見ると、中国政府が求めている「模範国民」の姿が浮かんでくる。

 社会主義国の中国では、国家による栄典制度は「旧社会の遺物」であり、「全ての人民が平等である」という理念から、建国以来、世界でも珍しく国家級の勲章が存在しなかった。

 その中国政府が2016年、共和国勲章を制定。「中国の特色ある社会主義建設、国防建設において、卓越した勲功を立てた傑出した人士」に授与するとした。勲章の制定と今回初めての候補者発表は、10月1日で建国70周年を迎えるという時期に合わせ、愛国心の高揚を図ろうとしているとみられる。

 申し分のない業績の人が多いが、共通しているのは「自己犠牲の精神に富み、国家と人民のために人生をささげた」経歴の持ち主ということだ。

 政治家の申紀蘭(Shen Jilan)氏は、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で一度も反対票を投じたことがなく、本人は「私は共産党の方針に従わなければならない」と繰り返し、「模範労働者」であり続けている。習近平(Xi Jinping)国家主席が申氏の住む村を訪ね、懇談したこともある。

 医学者の屠ヨウヨウ(Tu Youyou、ヨウは口へんに幼)氏はノーベル医学生理学賞(Nobel Prize in Physiology or Medicine)の受賞者に選ばれた時、「アルテミシニンは研究チームで発見したもので、私一人の業績ではない」と何度も強調し、謙虚な姿勢に徹していた。中国本土のノーベル賞受賞者といえば、2012年に文学賞を受賞した作家の莫言(Mo Yan)氏がいるが、莫氏でなく「世のため人のため黙々と働いてきた」印象が強い屠氏に勲章を授与しようとするところに、政府の意図が見える。

 貧困地域の振興に努めた張富清(Zhang Fuqing)氏について、習国家主席は今年5月、「張富清同志の先進事例についての重要な指示」を出し、「英雄・張富清同志は勲功を60年間も周囲に知らせることなく、貧困地域に一生をささげたことは感慨深い」と強調した。そして、「人民に奉仕する精神を大いに発揚し、一丸となって奮闘することは、新時代において強大な力を結集する」と呼びかけた。

「人民に奉仕し、一丸となって奮闘せよ」。この言葉はまさに、今回の国家勲章を通じて政府が国民に訴えかけたい狙いそのものといえそうだ。「中華民族の復興」をスローガンに掲げる習国家主席。建国70周年の節目に「模範国民のあるべき姿」を広く知らしめようとしている。