■「パンジシールの獅子」と呼ばれた父

 残虐な軍閥や反目し合う詐欺師たちが政界に居並び対立が絶えないアフガニスタンで、アフマド・シャー・マスード氏はいまでもアフガン人の間で求心力を持つ存在だ。国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)によって暗殺されていなければ、タリバンなき未来へと国を導いていたと考えられている。

「パンジシールの獅子(Lion of Panjshir)」と呼ばれる同氏の肖像は、今も屋外広告から防風壁、車の窓、マグカップに至るまであらゆるところに使われている。

「アフガニスタンの歴史において唯一無二の人物だった。誰も彼のようにはなれないと思う」。息子のマスード氏はかすかにロンドンなまりのある滑らかな英語で取材に答えた。マスード氏は7年の英国滞在を経て、2016年にアフガニスタンに帰国した。

 父が48歳で暗殺されたとき、マスード氏は12歳だった。父が殺害された2日後の2001年9月11日、世界を震撼(しんかん)させた米同時多発攻撃が起きた。この出来事は、アルカイダの創設者だった故ウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者を追跡すると同時に、ビンラディン容疑者をかくまっていたタリバン政権の転覆を目指した、米国が主導するアフガニスタン侵攻の引き金となり、その後のアフガニスタンの歴史を決定づけた。

 マスード氏は父の死後、イランで学業修了後に渡英し、サンドハースト王立陸軍士官学校(Royal Military Academy Sandhurst)で訓練を受け、さらにロンドンで二つの学位を取得した。