■「何も守ってくれない」

 マスード氏が見通しているように、米政府とタリバンの和平協議では、絶対権力の獲得が常に目標とされる勝者総取りのあしき制度があるアフガニスタンの政治機構の欠陥に取り組むことは不可能だ。その代わり、イスラム過激派運動の粘り強さが報われることになるだろう。

「万人に権力を分配するプロセス、アフガニスタンの権力を分散化させるプロセスへと進まない限り、われわれはどんな問題も解決できない」とマスード氏は言う。そうでなければ「タリバンに勝利感を与えるだけだ…それこそが本当に恐ろしい。タリバンを正当化し、世界中のテロリスト集団に希望を与えることになる」。

 マスード氏は、米国がタリバン以外のアフガン勢力を排除した和平協議で、あまりにも性急にタリバンに譲歩していると考えている。それにより、米軍撤退後に生じる空白地帯にタリバンが影響力を拡大させる準備をさせてしまっていると指摘する。

「今起きていることは、米国とタリバン、地域大国とタリバンの間のことだ。アフガニスタン国民はどこにいるというのだろうか?」

 米国はタリバンとの交渉について、あくまでアフガニスタン政府とタリバンとの協議に付随するものであり、アフガニスタンの問題は「アフガン内の対話」でしか解決できないと主張している。

 だが、米軍が慌てて撤退すれば、腐敗がまん延し統率力のないアフガニスタンの治安部隊は崩壊しかねないと、マスード氏は警告する。米軍撤退に先立ち、すでにパンジシールなど各地でさまざまな勢力や民兵らが再武装、再結成する動きが出ているという。「残念ながら、アフガニスタン政府にはタリバンとの戦闘を続ける能力がない」とマスード氏は言う。

 アフガニスタンの表舞台に踏み出すことで、マスード氏の身の安全が懸念されている。これについてマスード氏は、笑いながら宿命論的な説明をした。

「死に関することはすべて、神によってあらかじめ決められている」「その時が来たら、何も守ってはくれない」 (c)AFP/Thomas WATKINS