クルド人地区の子どもをとりこにする銀幕の魔法、シリアの移動映画館
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【9月15日 AFP】シリア北東部クルド人居住区にある学校の校庭で、子どもたちがチャーリー・チャップリン(Charlie Chaplin)の喜劇映画を見ながらクスクス笑っている。地方都市を巡業する移動映画館のおかげで実現した久しぶりの娯楽だ。
映画監督のシェロ・ヒンデ(Shero Hinde)さん(39)は、ラップトップ型パソコンと映写機、キャンバス地のスクリーンのみを使って遠隔地の村々で映画を上映している。
「町でも映画を上映したことがある。でも、村の子どもたちにも楽しんでもらいたい」。白髪の交じるふさふさした巻き毛に眼鏡姿のヒンデさんはそう話した。
ヒンデさんとボランティアグループは、内戦で荒廃したシリア北東部クルドのロジャバ(Rojava)と呼ばれる半自治区でクルド語や他の言語の字幕が付いた映画を上映しながら、自分たちの映画愛を広めたいと思っている。
「私たちの目標は、今後1年で、ロジャバで映画を見たことのない子どもが一人もいないようにすることだ」とヒンデさんは話す。
夕暮れ前、サンジャクサーダン(Sanjaq Saadun)の村では、色とりどりのプラスチック製の椅子に腰掛けた子どもたちが、初めて見る映画『キッド(The Kid)』のモノクロ映像を目を丸くして見ていた。
学校のバスケットボールコートに陽気なピアノ音楽が流れた。1921年のこの無声映画で、チャップリンは孤児となった赤ん坊を救う放浪者を演じている。赤ん坊の鼻を拭いたり天井からひもでぶら下げたやかんから赤ん坊にお乳を飲ませようとしたりする場面では、暗くなった校庭に大きな笑い声が響いた。
クルド人居住区ではかつて、古い映画館で米国のB級映画やボリウッド映画、ポルノなどが上映されていたが、観客がいなくなり閉館してしまった。
地元住民の心の中では、映画は悲劇にも結び付いている。近隣の町、アムダ(Amuda)の映画館が1960年に全焼したときには、280人を超える子どもが犠牲となった。