【8月30日 AFP】世界保健機関(WHO)は29日、ヒト生殖細胞系列のゲノム編集に関わるすべての活動を中止するよう呼び掛け、ヒトの遺伝子操作の追跡調査を行うために世界規模の登録簿を作成する計画を発表した。ヒト生殖細胞系列のゲノム編集は昨年中国で使われ、遺伝子編集された双子が誕生した。

 WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長はスイス・ジュネーブで開かれた同機関のゲノム編集監視委員会で、「新たなゲノム編集技術は、かつて治療不可能と考えられていた病気に苦しむ人々に大きな期待と希望をもたらしている」と述べる一方、「こうした技術利用の中には、倫理、社会、規制、技術上の過去に類を見ない課題を突き付けているものもある」と指摘した。

 中国人科学者の賀建奎(He Jiankui)氏は昨年11月、「分子のはさみ」を使って双子の女児のDNAを改変し、エイズウイルス(HIV)の感染を防ぐことに成功したと発表した。

 賀氏はその後、所属大学に解雇され警察の捜査対象となり、研究の中止を命じられた。

 賀氏の発表は世界的な反発を招き、未検証の遺伝子編集技術は倫理に反し、危険をはらんでいると科学者らが警告。WHOは昨年12月、この問題を調査する専門家委員会を立ち上げた。

 現在30か国ほどが、生殖細胞系列ゲノム編集の臨床利用すべてを直接、または間接的に法律で禁止している。

 テドロス事務局長は、「技術的、倫理的な影響が正しく検討されるまで」、各国は生殖細胞系列ゲノム編集に関する活動を一切許可すべきでないとの声明を発表。

 WHOは18人から成る専門家委員会の勧告を受けて、生殖細胞系列と体細胞の両方の臨床試験を包含する登録簿の作成に向けた計画の第1段階を明らかにした。

 単一細胞内で起きる体細胞変異が遺伝する可能性はないが、生殖細胞系列変異は子孫に受け継がれる可能性がある。(c)AFP