【8月29日 AFP】香港のキャセイパシフィック航空(Cathay Pacific Airways)の社内で、言論封殺の「魔女狩り」が起きていると従業員らが訴えている。ほんの2週間前、約2万7000人もの従業員の意見を封じるなど「夢にも思わない」と主張していた同社では既に、香港の民主派デモを支持した複数の従業員が解雇されている。

 香港で中国の影響力増大への懸念から反政府デモが過熱する中、キャセイ航空は、従業員のデモ参加や支持表明を認めれば中国向け事業を喪失するリスクに直面することとなった。

 8月半ばの時点ではキャセイ航空の立場は明確に、香港の誇る「言論の自由」の文化に沿ったものだった。ジョン・スローサー(John Slosar)同社会長は、記者会見で「わが社は香港で2万7000人の多様な従業員を雇用している。従業員たちはまさに、あらゆる問題について千差万別の見解を持っている」「何らかの問題について思考を強要するなど、まず夢にも思わない」と述べていた。

 だが、中国民用航空局(CAAC)が中国本土行きや中国領空を通過する航空便でのデモ支持派の従業員の乗務を禁じるよう通告すると、キャセイ航空の態度は一変。操縦士2人を含む従業員4人が解雇された。

 5人目の解雇者となったレベッカ・シー(Rebecca Sy)さんは、子会社キャセイドラゴン航空(Cathay Dragon)の客室乗務員で、労働組合の執行委員を務めていた。中国路線のシフトから外された翌日、何の説明もなく解雇されたという。

 28日、香港で行われたキャセイ航空の変節に抗議するデモで、シーさんは「今やオオカミに餌を与えるようなものだ。いったい何人解雇すれば満足するのか」とAFPに語った。

 6月に始まった民主派デモの勢いが衰えない中で、デモ隊を支持する姿勢を見せた者を暴き出す「魔女狩り」が行われていると、従業員らはおびえている。

 匿名を条件に取材に応じたキャセイパシフィック航空客室乗務員組合(Cathay Pacific Airways Flight Attendants Union)の組合員は、「私たちは監視されている。それは明らかだ」「密告制度がとても恐ろしい」と話した。

 社内では、ソーシャルメディアでデモ支持を表明していた従業員たちが次々とアカウントを削除している。自主検閲の動きが広がり、解雇につながりかねない政治的見解を隠そうと皆が躍起になっているという。

 別の客室乗務員も、「以前は分け隔てなくチームとして働いていたけれど、今は誰一人として互いを信用していない。機内では香港のことはほとんど誰も話さない」とやはり匿名で証言した。(c)AFP/Elaine YU, Emma CLARK