【9月16日 AFP】モルトのかすかな香りが、英イングランド中部レスターシャー(Leicestershire)州にひっそりとたたずむマウント聖バーナード寺院(Mount St. Bernard Abbey)の壁越しに漂ってくる。中では修道士らがビール造りをしている最中だ。

 カトリック修道会の一つトラピスト会の修道士らは6年前、酪農による収益の落ち込みを受け、牛乳をビールに切り替える決断をした。

 乳牛を売り、5年を費やして最新式の醸造所を開設した。今では年間約30万本の「ティント・メドウ(Tynt Meadow)」を製造している。ティント・メドウはトラピスト会の承認を受けた世界で12番目の「トラピスト・ビール」だ。

 ティント・メドウはアルコール度数7.4%のダークエールで、トラピスト会修道士協会(International Trappist AssociationITA)の3日にわたる厳正な審査の末、昨年、英国初のトラピスト・ビールと認められた。

 ITAの「Authentic Trappist Beer(真正トラピスト・ビール)」基準を満たすため、ティント・メドウは修道院内で修道士の監督と責任の下で醸造されており、収益は社会奉仕に充てられている。

 ティント・メドウという名前は、プロテスタントだったヘンリー8世(Henry VIII)が英国の修道院を閉鎖してから約300年後の19世紀半ば、カトリック修道院が再建されたレスターシャーの一画の地名にちなんでいる。

 ティント・メドウは、オランダやベルギーで熱狂的なファンを獲得した他、クラフトビール・ブームをけん引する英国の若者からも人気を集めている。一方、修道士たちは自分たちが醸造したビールを、クリスマスやイースター(Easter、復活祭)といった祝祭日にのみ味わっているという。

■修道士としての生活との両立

 修道士らのビールには課題もある。

 ある修道士は作業を行う日は最新設備の監視をしなければいけないため、礼拝を欠席しなければならないと話した。この修道士は仲間と精神的に一体になれるようiPad(アイパッド)のアプリを使って醸造所内で祈りをささげているという。

 ジョセフ修道士は「私たちは修道士としての生活があり、あまり醸造所での作業に邪魔をされたくはない」と話す。

 エリック修道院長は、非常にシンプルで、つつましい原料を特定の環境で混ぜ合わせて醸造することがビールを特別なものにしていると指摘する。すると、予想もしなかった可能性が引き出されるという。

「それが修道院の深い部分で起こっていることと似ているように思える」。

 映像は7月17日撮影。(c)AFP/James PHEBY