【8月22日 AFP】手のひらにすっぽり収まってしまうほど小さな2000万年前の霊長類の頭骨から、ヒトの脳の進化をめぐる謎の一端が明らかになったとする研究結果が21日、米科学誌「サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)」に発表された。

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 中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の倪喜軍(Xijun Ni)氏率いる中国と米国の研究チームは、現在のアンデス山脈(Andes)付近に2000万年前に生息していた霊長類(学名:Chilecebus carrascoensis)の化石化した頭骨の内部構造をX線とCTスキャンで調べた。絶滅したこの霊長類の頭骨は、これしか見つかっていない。

 霊長類の脳は、時代を下るに従って徐々に大きくなっていったと考えられてきた。だが、今回の調査からは、脳の増大はもっと回りくどい進化を遂げた可能性が見えてきた。

 霊長類には、ヒトの祖先が分岐した「旧世界ザル」と、米大陸・オセアニアにいる「新世界ザル」の2つの主要なグループがある。Chilecebusは新世界ザルに分類され、先史時代の山々を跳ね回って木々の葉や実などを食していたとみられる。

「いずれのグループでも、脳の増大が複数回起きたことが確認されている。また、特定グループでは相対的な脳の大きさが縮小した事例が幾つか確認されている」と、論文を共同執筆した米自然史博物館(American Museum of Natural History)のジョン・フリン(John Flynn)氏はAFPの取材に語った。

 Chilecebusの頭骨の化石は火山岩の中から発見されたため、生息年代が正確に特定されている。これを霊長類の系統樹に当てはめることによって、研究チームは類人猿の進化の過程で脳の増大が何度も独立して起きたと推論できたという。

 体の大きさは現代のマーモセットかタマリンほどしかなかったChilecebusだが、これらのサルとは対照的に、脳には複数のしわがあった。これは、より複雑な認知能力を持っていたことを意味している。言い換えれば、脳の大きさは常に脳の発達と関連しているとは限らないということだ。

 さらに今回の研究では、視覚中枢と嗅覚中枢の関係についても新たな発見があった。

 現代の霊長類では、視覚中枢と嗅覚中枢の脳に占める大きさは逆相関の関係にあり、視力が良いほど嗅覚は鈍く、嗅覚が鋭ければ視力は悪いことが多い。しかし、Chilecebusは「嗅球」と呼ばれる嗅覚情報を処理する脳の領域が小さかったにもかかわらず、視力もあまり良くなかったとみられることが分かったのだ。これは、これまで考えられていたのとは異なり、視覚中枢と嗅覚中枢は一対ではないことを意味している。(c)AFP