【8月22日 時事通信社】「非白人の大国との競争は初めてだ」。今年4月、米国務省のスキナー政策企画局長(当時)はワシントンで開かれた安全保障関連の会合で、米国と中国の対立を「文明の衝突」と位置付けた。米中の覇権争いは貿易や安全保障、最先端技術にまで及んでいる。米国は民主主義や市場経済などの価値観を共有するアジア諸国を囲い込み、「中国包囲網」の形成を急ぐ。

 しかし、同盟強化戦略を体現すべきはずのトランプ大統領は自国の利益を追求し、同盟国にも牙をむく。大統領と国家戦略の分断が生む「二つの米政府」は、日本をはじめとする同盟国を当惑させ、米国の国際的信用を失墜させている。

 ◇対中国「X論文」

 スキナー氏の「非白人」発言は「人種差別的」と批判を受けたが、国防総省幹部は「西欧文明と中国文明の対立という構図自体は的外れではない」と同意する。米戦略予算評価センターのトシ・ヨシハラ上級研究員も「中国共産党は欧米諸国が体現する民主主義や人権思想を国家存亡に関わる脅威と見なし、米中関係を文明の衝突と認識している」と分析する。

 スキナー氏はまた、冷戦期に国務省高官が匿名でソ連封じ込め戦略を提唱した通称「X論文」にも言及。国務省が中心となり、X論文に類似した中国包囲網戦略を策定していると明らかにした。

 冷戦期をほうふつとさせる「陣取り合戦」は苛烈さを増している。米国は次世代通信規格「5G」の実用化をめぐり、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の製品を排除するよう各国に要請。アジア諸国には中国の領土拡張主義に対抗する安保ネットワークの構築を呼び掛ける。

 ◇同盟軽視のツケ

 トランプ政権が2017年12月に打ち出した中長期国家戦略には、計85回にわたって「同盟」「同盟国」という文言がちりばめられた。だが、欧州やアジア諸国との同盟を「国際安全保障の支柱」と位置付けた戦略とは裏腹に、トランプ氏には同盟軽視の言動が目立つ。

 「アンゲラ、お前」。昨年7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の最終日、遅れて登場したトランプ氏がドイツのメルケル首相や加盟国首脳に言い放った言葉が場を凍り付かせた。「19年1月までに国防支出を増やさなければ、米国はNATOを離脱する」。驚いたNATOのストルテンベルグ事務総長は、オブザーバーとして出席していたアフガニスタン大統領らに退席を求め、正規加盟国だけの緊急会議を招集した。

 欧米メディアが「外交的暴力事件」としてこの出来事を報じた1カ月前、トランプ氏はシンガポールでの米朝首脳会談後の記者会見で、同盟国である韓国に相談することなく、米韓合同軍事演習の中止を宣言。在韓米軍の規模や演習は「同盟国間で協議して決める」としていたマティス国防長官(当時)の言葉をあっさり翻していた。

 ◇進む米国離れ

 国際協定から一方的に離脱し、孤立志向を強めるトランプ政権の求心力は著しく低下している。欧州諸国はNATOとは別に欧州軍の創設を模索。中東ホルムズ海峡の安全確保を目的とした米主導の有志連合構想も広がりを見せていない。

 トランプ政権が描く中国包囲網に参加を明言する国も少ない。中国との貿易関係悪化に対する懸念に加え、同盟関係を軽視し、政府方針をたやすく覆す「予測不能」なトランプ氏にはしごを外されるのではとの恐怖感が拭えないからだ。

 今年6月、シャナハン国防長官代行(当時)はシンガポールで開催されたアジア安全保障会議で新たなインド太平洋戦略を披露したが、アジア諸国の反応は総じて冷ややかだった。ミャンマーやタイ、韓国からの出席者は「(米中の)いずれも支持しない」「明確な支持を表明しないのが最善策だ」と口をそろえた。

 外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は「自国の利益のために同盟国を利用するというトランプ氏の姿勢は、米国の信頼性に悪影響を与えた」と指摘する。中国の軍事的台頭に直面する中、日本はどこまで米国との同盟に信を置くべきか。日米安保条約の破棄に言及したとされるトランプ氏の再選も十分に可能性がある中、日米同盟が持続可能かどうかが問われている。(c)時事通信社