【9月15日 AFP】ヒジャブを着けた小柄な女性レスラー「フェニックス」が、リングでより大きな体の相手に挑む──。フェニックスは、男性優位なマレーシアのプロレス界で、ひときわ目を引く存在だ。

 炎の柄がついたボトムスに黒とオレンジのヒジャブとトップを身にまとったフェニックスこと、ノル・ディアナ(Nor Diana)さん(19)が、鮮やかな身のこなしで体の大きい相手を投げとばし、身動きできないよう相手をフォールすると会場から歓声が上がった。

 身長155センチ、体重43キロのフェニックスは、持ち味のスピードと敏しょうさで対戦相手を苦しめる。昼間は病院で働く、内気で穏やかな口調のノル・ディアナさんだが、いざリングに足を踏み入れると恐ろしいフェニックスに変身するのだ。

 プロレスの世界に飛び込んだノル・ディアナさんに対して、保守的な考えを持つ人からの批判は聞こえてこない。それどころか、ソーシャルメディアで人気を集め、ヒジャブを着けた他の女性たちの興味をも引きつけている。

 試合に勝利し、リングインタビューに応じたフェニックスは、「私はムスリム(イスラム教徒)で、ヒジャブを着けている。でも、大好きなことから私を遠ざけるのは、たとえそれが何であろうとできやしない」と話した。

■壁を壊す

 ノル・ディアナさんは夢だったレスラーになるため2015年にトレーニングを開始し、その数か月後にデビューを果たした。「最初はいつも大変だった。イスラム教徒でヒジャブを着けているのだからレスリングなんてできやしないと言う人が多かった」

 身元が分からないようずっと覆面を着けていたが、昨年から覆面を使うことをやめた。それからは覆面なしでリングに立っている。

 人々の反応が怖かったとノル・ディアナさんは振り返る。だが、人気は上昇を続けており、ソーシャルメディアでは数多くのフォロワーもいる。マレーシアのプロレス界を盛り上るのに「フェニックス」が一役買っているのだ。

 東南アジアでのプロレス人気は高まりをみせているが、興行規模は比較的小さい。レスラーの数は約30人で試合は2、3か月ごとに行われる。それでも試合会場には数百人のファンが訪れるという。

 ノル・ディアナさんはマレーシアに2人しかいない女性レスラーの一人だ。コーチでレスラーでもあるアイェズ・シャウカット・フォンセカ(Ayez Shaukat Fonseka)さんは、AFPの取材で「(フェニックスの)人気が出ると、同じようにヒジャブを着けた女性からレスリングをやってみたいというメッセージがたくさん届いた」と述べ、「彼女にできるのなら自分にもできると女性たちに証明して見せた。壁を壊したようなものだ」と話した。(c)AFP/Patrick Lee