【7月31日 AFP】2008年、米国初の黒人大統領にバラク・オバマ(Barack Obama)氏が選ばれたとき、過去に奴隷制度が存在していた同国では、多くの人が「重大な転機の訪れ」を感じていた。だがそれから10年が経過し、2020年の米大統領選挙の予備選で争点となっているのは、またしても人種問題だ。

「私たちが人種的に対立しているという事実は、黒人の大統領が米国の人種問題を解決する特効薬にはならなかったことを示している」と、米エモリー大学(Emory University)政治学準教授アンドラ・ガレスピー(Andra Gillespie)氏は指摘する。

「これは米国の誕生と同じくらい長い歴史を有する制度的な長期の問題だ」

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は、政治的利益のために人種間の対立を利用する。そこにはためらいはなく、再選戦略の中心に掲げているのは白人アイデンティティーだ。

 米ニューヨーク州立大学バッファロー校(University at Buffalo, The State University of New York)政治学のジェイコブ・ナイハイゼル(Jacob Neiheisel)准教授も、オバマ氏が大統領になった後でも、多くの人は「脱人種社会という考えにかなり懐疑的だった」と話す。

 人々はトランプ氏が大統領になるとは予測していなかっただろうが、「一つの方向に進めば、反動がある」とナイハイゼル氏は言う。

 1861年から65年の南北戦争(American Civil War)により奴隷は解放され、それに続く再建期に黒人は社会に組み込まれた。だが、再建期に認められた権利の大部分はジム・クロウ(Jim Crow)時代に覆され、1960年代に公民権法と投票権法が制定されるまでその状態が続いた。

 それ以降、米国の政治家の大半は、人種問題を慎重に取り扱ってきた――トランプ氏以外は。

 トランプ氏はオバマ氏の出自を問ういわゆる「バーサー(Birther)」運動で政治の世界で注目を浴びるようになり、2016年の大統領選で移民に対する辛辣(しんらつ)な攻撃を開始。その後も、数々の人種論争を巻き起こしている。

 トランプ氏は2017年に、米バージニア州シャーロッツビル(Charlottesville)で衝突した白人至上主義団体と反対派の双方について、「非常に素晴らしい人々だ」と述べていた。また最近でも、民主党の非白人議員は「出身地に戻るべきだ」と発言している他、アフリカ系の議員を攻撃して黒人の多い地元選挙区を「ネズミがはびこり、めちゃくちゃ」などと述べている。

 米コロラド大学(University of Colorado)女性・ジェンダー学のセレステ・モントヤ(Celeste Montoya)准教授は、トランプ氏が人種の不平等問題で票を集めることに成功したことを指摘しながら、「移民と人種的少数派は、米国民の苦しみの原因としてスケープゴートにされた」と説明している。