■助けを求める叫び

 イラクはここ40年近くにわたり政情不安に陥っている。一つの紛争が終わると別の紛争が始まり、社会が正常さを取り戻す機会はほとんどなかった。

 社会的な圧力や高い失業率も、若者に重くのしかかる。世界銀行(World Bank)によると、イラクの若者の失業率は、男性で17%、女性で27%に上っている。

 女性の人権に取り組むNGO「イラク女性ネットワーク(Iraqi Women's Network)」の代表で、若者の自殺問題に詳しいアマル・コバシ(Amal Kobashi)氏は、「雇用や教育、福祉といった面から見ると、若者は最も不幸な世代となっている。こうしたことが背景にあり自殺者が増えている」と話す。

 またここ最近では、若者が自殺する様子を捉えた陰惨な動画がソーシャルメディアに投稿されるケースもいくつかあった。

 こうしたケースについてコバシ氏は、助けを求める若者らの叫びである可能性を指摘する。同国では心の問題を専門に扱う施設がほとんどなく、セラピーに通うのは「最後の手段」と見なされており、中には、セラピーに通うことを「正気ではない」と言う人もいることがその背景にあるというのだ。

■「サバイバルモード」

 今回、匿名を条件に取材に応じたイラクのメンタルヘルス専門家は、受診する患者に若い世代が増えていることを指摘する。またイラクの政情が比較的安定しているため、人々がようやくトラウマと向き合えるようになったこともその一因として考えられるとした。「テロを生き延びるため、人々は何年もサバイバルモードだった。だがようやく他の社会問題に関心が持たれ始めている」

 メディアでも自殺問題を取り上げ始めている。国営テレビ局が自殺に関する特別番組を放映するなど、ようやく問題が公に語られるようになったかたちだ。

 政府もこの問題に気付いている。イラクのシーア派(Shiite)の大部分が最高指導者と仰ぐアリ・シスタニ(Ali al-Sistani)師が「これらの問題を解決する」よう政府に求めているのだ。(c)AFP/Salam Faraj